2021年度の文化勲章受章者がこのほど発表され、歌舞伎界からは尾上菊五郎(79)が選ばれた。会見では、喜び、感謝、向上心、いろいろな言葉を聞くことができた。

菊五郎がどんな表情で登場するのかと、会見を楽しみにしていた。照れくさそうにするのかなという予想は見事に裏切られ、これ以上ないほどの満面の笑みだった。文化勲章の重みを、表情からも感じることができた。

菊五郎は「このような、栄えある勲章をいただけるのは、不器用な私に懇切丁寧にご指導くださった先輩方、父(尾上梅幸)のおかげだと、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです」という言葉に続けて「オリンピックの年に歌舞伎界が金メダルをいただいたような気持ちになって、一生忘れられない年になりました」と、最大限に喜びを表現した。

知らせを受けた時、指導してくれたり、かわいがってくれた先輩たちの顔がフラッシュバックのように思い浮かんだそう。どんな先輩たちにお世話になったのかと聞かれると、10人以上の名前を挙げ「私ほど先輩方に教えを受け、かわいがられた役者はいない」と感謝した。

若手へのエールには辛口も織り交ぜた。菊五郎が若手のころは、自分のせりふだけが書いてある「書き抜き」と呼ばれる紙しかもらえないため、物語の全体像や役柄をつかむため、先輩の楽屋に行って教えてもらうことが多かったという。菊五郎は「今の若手は台本を1冊もらえますし、映像もたくさんある」と言いつつ「私は楽屋での交流が楽しかったです。今はみんな、楽屋で映像を見てる。楽屋が殺風景というか冷たい感じがします」とさみしげに語った。コロナ禍が収束した後、先輩の楽屋に行って教えを請う、というような風景が見られるといいと思う。

紛れもなく、歌舞伎界を代表する役者の1人。それでも菊五郎は「この後もまだまだ役者の道は続く。歌舞伎の持つ独特な形式美、色気、艶、愛嬌(あいきょう)、江戸っ子かたぎを研究して、お客さまに楽しんでいただける役者になりたい。役者はいくつになっても、死ぬ間際まで発展途上です」と、向上心しかなかった。

大幹部にあいさつした時の緊張の場面、失敗談、妻富司純子への感謝など、どのエピソードも、目に浮かぶようだった。また、ふと神妙な表情になって「布団に入って、このような勲章をいただける、自分でいいんだろうかと、考えます」と繊細に語る場面もあった。話した言葉がどれも心に残る会見となった。