昨年の暮れに冬の雪が降り積もる中、北海道の富良野に行って、脚本家の倉本聰さん(87)に会ってきた。昨年3月に亡くなった、フジテレビ系ドラマシリーズ「北の国から」で主役の黒板五郎を演じた俳優田中邦衛さん(享年88)の話を聞いた。

81年に連ドラとして放送が始まった「北の国から」は、その後、節目ごとのスペシャルドラマとなり、02年に終了した。「北の国から」以降の邦衛さんは、出演する作品が少なくなった。亡くなる前、10年ほどは公の場に出なくなり、12年に地井武男さんの「お別れの会」に出たきりだった。

「北の国から」に主演する前の邦衛さんのイメージは、映画「若大将」シリーズで加山雄三演じる若大将のライバルの青大将、「網走番外地」シリーズで高倉健演じるヤクザ者の舎弟、そして「仁義なき戦い」シリーズのヤクザ。個性的なバイプレーヤーだった。テレビ番組で邦衛さんのまねをする人は、必ず青大将の口ぶりをなぞった。

高倉健さんら6人の候補から「一番情けないから」という理由で、邦衛さんを黒板五郎役に据えた倉本さんは「青大将を捨てろ」と言い切った。「俺から青大将を取ったら、何も残らねえじゃねえか」と言う邦衛さんを説得して、21年に及ぶ名シリーズを作り上げた。

タキシードを着る時でも、わざわざ細身のマンボズボンをあつらえる邦衛さんの独特の美学、そして真面目で家族思いの人柄。初めて会った60年以上前の日々をなぞるように、倉本さんは話してくれた。

雪深く積もる富良野は寒かった。あらゆる場所が禁煙になるのに反発して、倉本さんがプロデュースしたSoh's BARで葉巻をくゆらせ、酒を飲んだ。13年ぶり2回目の富良野。12年前の富良野は8月なのに涼しくて、トンボが群生していた。

高倉健、緒形拳、松田優作、萩原健一、大滝秀治…倉本さんに話してもらった名優のことを思いながら飲む酒は格別にうまかった。

今回の富良野行きは、記者にとって2年8カ月ぶりの出張だった。その間に時代は令和に変わり、コロナ禍にみまわれ、定年を迎えた。東京から直接富良野に入る予定が、神田沙也加さんの訃報があって、2日早く札幌に飛んだ。そこから富良野に入った。

雪の中で人生を深く考えさせられる出張だった。次の作品について情熱をほとばしらせる倉本さんから、大きなエネルギーをもらって東京に帰って来た。