演歌歌手北島三郎(85)が元日から、ダウンロード配信をスタートさせた。カラオケも含めると747曲にも及ぶという。さすが、芸道60周年を迎えた貫禄を示していると思う。

これまでに発売したシングルは247枚。そう聞くと、売れた枚数のベスト10が知りたくなるのが人情だが、あまりにも芸歴が長いために、昔の記録が整備されていないのだという。ただ「函館の人」「帰ろかな」「兄弟仁義」の3曲はミリオンを突破している。

この3曲のほかにも「まつり」「与作」「風雪ながれ旅」などNHK紅白歌合戦でおなじみのヒット曲は多い。

今世紀に入ってから、日本の音楽シーンでは、いわゆるCDなどのパッケージの売り上げは減少。それは、固いファン層に守られてきた演歌界も同じで、CDセールス的には厳しい戦いを強いられている。

少し前まで、NHK紅白歌合戦の最低出場ラインは、シングルCDセールスで5万枚とひそかに語られてきた。つまり、5万枚を突破すれば、新人歌手でも紅白出場の可能性が見えてくる。さらに、出場を重ねる歌手でも5万枚を超えれば、往年の名曲やカバー曲ではなく、新曲を紅白のステージで歌唱できるケースも高まるようだ。

とはいえ、昨今の音楽業界の評価は、CDセールスだけではないのは誰もが知るところ。ダウンロードやサブスクなど、NHKもさまざまなデータの使用を公表している。

もともと演歌ファン層はサブスクなど、ネットとの親和性は高くない。だからなのか、紅白歌合戦の出場者に関して、演歌歌手へのハードルは高い。

昭和の時代にさかのぼれば、紅白で歌唱される楽曲はみな歌謡曲だった。ジャンルは違えどもみな歌手。だが、いつの時代からか、演歌歌手だけが歌手の前に枕ことばが付くようになった。オリコンのチャートが別物だからという意見はあるだろうが、そのチャートを知っている人の方がはるかに少ない。演歌を前面に出すことで、特色を出すことができた時代もあったのだろうが、昨今はマイナス要素の方が大きいと感じてしまうのは私だけではないはずだ。

ここ数年、紅白歌合戦は、大物演歌歌手の卒業が報じられてきた。一昨年も、北島と出場回数50回で並ぶ五木ひろしが結果的に卒業した。北島も同じで、何年か前に卒業し、その後、出場の要望が高まり、紅白のステージに1度だけ立った。昨年でいえば、細川たかしのパターンだ。

流行歌がなくなったと言われて久しい。その年にヒットした曲を歌うのが紅白歌合戦だったが、そのコンセプトもやや微妙に…。もっといえば、男女を紅組と白組に色分けするのも、ジェンダー平等の理念からすれば物言いがつく。

個人的には、世代を共通して名前の知られている歌手が勢ぞろいし、その上で、歌のうまい歌手の生歌を聴きたいと思う。それが、公共放送として運営されるNHKが、大みそかの夜に放送する紅白歌合戦なのだと考えている。【竹村章】