黒沢清監督(66)が7日、都内のヒューマントラストシネマ有楽町でスタートした、米国のジョン・カーペンター監督(73)の特集上映「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022」公開記念トークイベントに登壇した。

カーペンター監督の「ニューヨーク1997」が81年の劇場公開以来、40年ぶりにリバイバル上映された後に、映画評論家の柳下毅一郎氏(58)とトークを行った黒沢監督は「作る側の発想かも知れないけれど、娯楽映画の場合、何をどうすればちょうど良いか誰も分からない。カーペンター(監督の映画)を見ると、このくらいでいいか…と。娯楽映画の基準」と絶賛した。

カーペンター監督は、82年「遊星からの物体X」、83年「クリスティーン」で知られる。代表作の1つである78年のホラー映画「ハロウィン」は、21年にも続編「ハロウィンKILLS」が公開されるなど、40年以上にわたってシリーズが続いている。同作では音楽を手掛け、ミュージシャンとしても活動している。

「ニューヨーク1997」は、犯罪発生率400%を超えた米国で、97年に巨大な監獄となったニューヨークのマンハッタン島に、大統領を乗せた飛行機が墜落。元特殊部隊の囚人スネーク・プリスキンは、24時間以内に大統領を救出することが出来れば無罪放免の一方で、救出が失敗したり脱走を試みれば、体内に埋め込まれた爆弾が爆発する任務に身を投じるという物語。

黒沢監督は「ニューヨーク1997」について「何度も見ていて、劇場で見るのは久しぶり…大学、出た直後くらいですかね? はっきり覚えてはいないんですけど、そんなに期待せずに見た。封切り(全国ロードショー時)じゃなく、2番館に落ちてきてからかな?」と初めて見た当時の状況を説明。その上で「1発でカーペンターという人は、すごいかも知れないと評価が跳ね上がりました」と熱っぽく語った。

評価が高まった理由として「当時は『レイダース』とか米国映画でもヒーローものでも豪華なものがあった中で、アウトローぶりというか…70年代前半くらいまで、米国映画に出てくることはあったけれど」とスネークのキャラクターを上げた。その上で「カート・ラッセル…大物っぽく出てくるけど、とっくに売れてるイーストウッドだったら、あるんだろうけど、こういうことを、やったことない人を、こう見せるのはすごい」と、子役出身だったものの当時、まだ知名度が高くなかった米俳優カート・ラッセル(70)を主演に起用した上での演出もたたえた。

その上で、黒沢監督は、カーペンター監督が映画の中で描く主人公について「行動原理が自分のため、気に入らないことを正すため」と評した。その上で「最近の映画は、かわいい娘や人のためだったり、もう少し分かりやすいと、お金のためというのがある。けれど(カーペンター監督の映画の主人公は)ちょっとした意地だけで、こんなことをやってしまう人という、ほぼ一貫した主人公像を見せる映画を撮ってきている。すごいなと思います」と絶賛した。

黒沢監督は、柳下氏から「次はカーペンター的なヤツを1つ」と新作のリクエストを受けると「無理やり作り上げたキャラクターなので…哀川翔さんでやりたいという欲望も一瞬、あったんですけどね」と、95年から6本製作した「「勝手にしやがれ!!」シリーズや97年「復讐 運命の訪問者」、98年「蛇の道」「蜘蛛の瞳」などで主演に起用した、哀川翔(60)の名を挙げた。その上で「なかなか…まぁ、日本人で、この通りの、こんな感じというのは、なかなか難しい。アメリカンって言って良いか分からないけれど、米国文化の中に時折、出てくるアウトロー。自由を求めて、屈しないみたいな」と、日本においてカーペンター監督的な作品を作ることは難しいと判断したと明かした。