「天使のはらわた」などで知られる映画監督、劇画家の石井隆(いしい・たかし)さん(本名石井秀紀=いしい・ひでき)が、がんのため5月22日午後7時53分に自宅で亡くなっていたことが分かった。75歳だった。9日に石井さんの製作プロダクションが発表した。葬儀は故人の意向で近親者のみで執り行った。関係者によると2、3年前から闘病し、昨夏から入退院を繰り返していた。

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石井隆さんを何度か取材したのは、「天使のはらわた 赤い眩暈」で監督デビューした88年前後だ。

劇画で描いた匂い立つようなエロスからは想像しにくいもの静かな紳士で、ぼそぼそとていねいに構想を語った。ギラついたところはみじんもない。作品の内容からすれば意外だったが、細密な劇画のタッチはこんな人だから生まれるのだろう、と納得もいった。

「ローアングルを多用して、アップで肌触りを出し、僕のイメージを映像化したい。ポルノの原点に返って、ストリップのように少しずつ盛り上げてクライマックスにもっていきたい」

決して大きな声ではないが、言葉の端々に初監督への熱いものが感じられた。

高校時代には「映画芸術」を愛読。早大時代にアルバイトで映画「涙でいいの」(69年)の監督助手を体験したが、セットの土ぼこりで持病のぜんそくを悪化させ、これが一時映画を断念するきっかけとなった。が、劇画に転じたことが名作「天使のはらわた」を生むことになり、この作品の熱心なファンとなった竹中直人らとの縁も生んだ。

90年代中盤には「ヌードの夜」や「GONIN」などジャンルも広げたが、どの作品にも、苦節を経て撮った初監督作品に込めた石井さん流の「肌触り」が貫かれていたように思う。【相原斎】