老舗劇団「俳優座」が復活の兆しを見せている。文学座、劇団民藝とともに「新劇御三家」と言われ、数多くの有名俳優を輩出したが、平成以降は低迷の時期が長く続いた。しかし、ここ数年は意欲的な新作、翻訳劇の上演で活気を取り戻し、21年上演の5作品で紀伊国屋演劇賞団体賞を初めて受賞した。俳優座復活の背景を探る。(敬称略)

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俳優座は戦中の1944年に演出家の千田是也、東野英治郎、東山千栄子らによって創立された。戦後は東京・六本木に俳優座劇場と養成所を併せ持ち、シェークスピア、チェーホフの翻訳劇から創作劇まで幅広く上演した。仲代達矢、平幹二朗、加藤剛、田中邦衛、中村敦夫、原田芳雄、市原悦子、栗原小巻らを輩出し、戦後の演劇界をリードした。しかし、仲代ら看板俳優が相次いで退団し、1990年代に劇団の大黒柱だった千田が亡くなった頃から、低迷が続いた。演劇界で俳優座の公演が注目されない時期が長かった。

しかし、ここ数年で状況が変わってきた。女優業を休んで、今は経営に専念する有馬理恵代表取締役社長(49)は言う。「組織改革や眞鍋卓嗣(文芸演出部)の活躍に代表されるように座内での新しいうねりが生まれつつあると思います」。演出家の眞鍋は47歳。ここ10年で頭角を現し、2020年に高校を舞台にした俳優座公演「雉はじめて鳴く」などの演出で紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞した。俳優座が同賞の団体賞を受賞した21年には英国の大衆紙の激しい部数競争を描く「インク」カミュ作「戒厳令」を演出したほか、外部では山田裕貴主演「海王星」の演出を手掛けた。今、最も注目されている演出家でもある。

そして、体制も変わった。以前は経営を主とした「役員会」と創造面を主とした「幹事会」の両輪だったところを、「取締役会」に1本化した。有馬社長は「2つの歯車がかみ合わない面もあったので、両方を一緒に考えることにしました」。取締役会のメンバーも40代、50代を中心となって、全体の風通しも良くなったという。

上演される演目も、ベテランから中堅、若手まで幅広く起用し、アンサンブルの良さを武器に、海外の話題作から日本の若手劇作家の新作まで多様な作品を上演している。約150人の劇団員の一体感も増してきている。

さらに今年から俳優座劇場と共同してYouTube「劇チャン」も始めた。長い歴史を持つ新劇の劇団に共通する悩みは、長年通ってくる観客の高齢化があり、より若い世代にも関心を持ってもらう狙いがある。有馬社長は「今残さないといけない劇団、劇場、演劇界の先輩の話などを多くの人に見てほしい」と劇団の代表でもある89歳の岩崎加根子に出演してもらった。

24年には創立80周年を迎える。23年、24年、25年の3年間を「80周年イヤー」として、さまざまな演目、企画を検討するとともに、より強固な体制作りのためにクラウドファンディングも予定している。

今年、新人を育成する劇団付属の演劇研究所所長に眞鍋が就任した。カリキュラムや講師陣も一新し、応募者は例年以上に増えて、本科・夜間を含めて入所者は30人を超えた。「同調圧力」をテーマにしたフランスの喜劇「ムッシュ・シュミットって誰だ?」を19日まで上演し、11月には80代の親が引きこもりの50代の子を世話する「8050問題」に迫る横山拓也の新作を眞鍋演出で予定している。有馬社長は「長い歴史がある分、伝統を継承しつつ新しいものを積極的に取り入れ、俳優座らしい良質の作品を作っていきたい」と80周年の先をも見据えている。【林尚之】