演歌歌手坂本冬美(55)が、歌謡浪曲4曲を収録したアルバム「坂本冬美 歌謡浪曲名作選」を11月9日に発売することが30日、分かった。師匠の二葉百合子さんから「歌い継いで」と直々に頼まれた名曲「岸壁の母」も収録している。

坂本と二葉さんの出会いは約20年前。人気歌手として走り続ける日々に疲れ果てた坂本は、デビュー15周年を迎えた02年3月に休業を宣言。歌に自信をなくし「このまま引退してもいい」との思いで、和歌山県の実家で過ごしていた。当時、突然の活動休止に重病説や死亡説なども出た。

だが、ある日、テレビを見ていた母から声をかけられた。「『二葉百合子さんのコンサートをやっているよ、あなた見たら?』」。言われるままにテレビの前に行くと、二葉さんの力強い歌声が流れてきた。坂本は「一瞬で吸い込まれた。私がすがれるのは先生だけ。強いノドと、強い精神力があったらもう一度歌えるかもしれない」。二葉さんに手紙を書き、歌のレッスンを快諾してもらった。この時の二葉さんの言葉がこれだ。「あなたも歌の壁にぶつかったのね。それは成長の証よ」。

自信と歌声を取り戻した坂本は翌03年4月に再び歌の道を歩き始めた。

「岸壁の母」オリジナルは菊池章子が1954年(昭29)に歌唱してヒット。72年に二葉さんが歌謡浪曲としてカバーをして再び大ヒットに。以来、「岸壁の母」は二葉さんの代表曲になった。坂本も二葉さん直伝の「岸壁の母(歌謡節入り)」を05年発売のアルバム「浮世草紙」に収録している。

二葉さんは08年に引退したが、その際、自身の曲を弟子たちに歌い継いでもらいたいと願った。「岸壁の母」に指名したのが坂本だった。「うまく歌わなくていい。でも、あなたはきっと心でこの歌を歌い継いでくれる。私はそれを信じています」。

坂本は「休業中、運命の出会いとなったのが二葉百合子先生。二葉先生が長年大切に歌って来られた『歌謡浪曲』を直々にご指導頂き、復帰後のステージから私なりに二葉先生のお心を受け継いで歌わせて頂いております。ご指導いただいた、この20年の集大成とも言える4曲に魂を込めて歌わせて頂きました。改めまして二葉先生に心より深く感謝申し上げます」とコメントしている。