元参院議長で宝塚歌劇出身の女優だった扇千景(おおぎ・ちかげ)さん(本名林寛子=はやし・ひろこ)が9日午前7時56分、食道胃接合部がんのため都内の病院で亡くなった。89歳。13日、松竹が発表した。

夫は歌舞伎俳優で20年11月に亡くなった坂田藤十郎さん。すでに近親者で密葬を執り行い、本葬は27日に東京・増上寺で行われる。喪主は長男中村鴈治郎(なかむら・がんじろう、本名林智太郎=はやし・ともたろう)。鴈治郎、次男中村扇雀、2人の孫も歌舞伎俳優。

藤十郎さんが亡くなって約1年後の21年10月に行われた「偲ぶ会」が、扇さんが報道陣の前に姿を見せた最後だった。扇さんは「何かにつけて涙、涙です。私もしっかりしないと」と何度も涙をぬぐっていた。

扇さんの訃報の発表とともに、鴈治郎、扇雀もコメントを発表。鴈治郎は「母らしく、最期まで気丈な姿でした。苦しまず、穏やかに旅立っていきました。今ごろは大好きな父のもとにいて、きっと喜んでいると思います」とし、扇雀は「入院して1カ月ほどでしたのでスッと安らかに永眠いたしました。悔いのない人生であったと思います。母の子であったことをただただ感謝しています」とコメントした。

扇さんは54年に宝塚歌劇団に入り、八千草薫さんとともに映画専科に編入され、同年に映画「快傑鷹」で女優デビュー。57年に退団し、翌58年に歌舞伎俳優中村扇雀(後の坂田藤十郎さん)と結婚。77年の参院選で自民党から全国区で立候補し79万票を得て初当選した。建設大臣、国土交通大臣など歴任し、04年に女性初の参院議長に就任した。

07年に政界を引退してからは、歌舞伎役者の一家を支えることに専念し、藤十郎さんとのおしどり夫婦ぶりは有名だった。16年に初期の乳管がんと診断され手術。術後の放射線治療を19回も受けたが、藤十郎さんは地下鉄に乗って見舞いに通ったという。藤十郎さんの「偲ぶ会」で扇さんは「『あまり早く迎えに来ないでね。することいっぱいあるから』と主人には言ってます」と語っていたが、最愛の夫の元へと旅立った。女優、議員、妻、母としての役割を全うしての旅立ちとなった。

扇千景さん死去、89歳 映画デビュー、レオタード姿、結婚、女性初参院議長など/写真特集>>