昨年11月に61歳で亡くなった俳優渡辺徹さんの「お別れの会」が28日、東京・港区のグランドプリンスホテル新高輪で行われた。劇団・文学座の代表で、先輩俳優の角野卓造(74)が渡辺さんを「別れの言葉」でしのんだ。

角野は「渡辺徹君、君が旅立ってから4カ月がたちました。君を失った寂しさはまだまだ尽きることはないけど、今ここにこんなに大勢の皆さんに御参列いただいて、君を送る会を開けること。君はこれまでどんなにたくさんの人たちに愛されてきたか、そのことを改めて強く感じます」と切り出した。

角野と渡辺さんが共演して35年になるという。「劇団で初めて君と共演してから35年だ。君とは本当にいろんな芝居をやってきたけど、若い頃はなぜか古今東西の名作といったのにはほとんど縁がなくて、いつも配役されるのは書き下ろしの手ごわい創作劇ばっかりだった。でも本当のこと言うと、俺も徹もその頃は、出来たてホヤホヤのさ。これから本邦初演っていう芝居が断然好きだったよな」

全国各地の演劇行脚が懐かしかった。

「全国各地の演劇観賞会からオファーをいただいて、日本全国長い旅公演もずいぶんやった。旅の途中でテレビの仕事で東京へ帰り、そこからすぐ旅先へ戻ってくるっていう『行ってこい』も2人して散々やらされた。もし事故なんかがあって列車が止まりでもすれば、それこそ舞台も番組の制作も1発でアウトになるような、そんなドキドキするような行ったり来たりだった。その時の最終の新幹線に慌てて乗り込んで、徹だって内心穏やかじゃなかったかもしれないけど、先輩の俺を気遣ってくれて、いつもいつも明るく明るく振る舞ってくれた。徹は、あの頃から本当に大人だったな」

それでも1度も舞台やテレビに穴を開けたことはないという。

「でも俺たちの幸運だったのかな。台風が来ようが、大雪が降ろうが、ただの1回も舞台も番組もつぶしたことはなかった。だけど、今思い出すとちょっとドキッとするような徹」

角野は渡辺さんを「風」に例えた。

「稽古場で徹の姿を見るといつも感じたのは今っていう『風』だった。新劇なんて言ったって、変な人間関係や、古くさいレパートリーにとらわれてガチガチになってた劇団に、徹は今っていう新しい『風』を吹き込んでくれた。そのことで若い連中がどんなに奮い立ったか、どんなに勇気づけられたか、その後、息の長い芝居が何本も生まれたからね」

亡くなった渡辺さんは多才な人だった。

「徹はアイドルであり、大ヒット曲を持つ歌手であり、ドラマ、映画、バラエティー、ナレーション、司会者、そしてもちろん舞台俳優、本当に多岐にわたって大活躍をしてきた。その才能、その成果をこれからますます劇団に生かしてくれると信じていた。早すぎだろ徹。もっともっと一緒に仕事がしたかった。もっともっとバカ言い合って大笑いしたかった」

渡辺さんは生涯、文学座所属を貫いた。

「徹は生涯、文学座の座員でした。俺たち劇団員はみんなそのことを心から誇りに思ってるよ。徹ありがとう。またな」と締めくくった。