歌舞伎俳優松本白鸚(80)が初演から54年間にわたって主演してきたミュージカル「ラ・マンチャの男」のファイナル公演が24日、神奈川・横須賀芸術劇場で千秋楽を迎えた。

通算1324回上演したライフワークでもあり、役柄に俳優人生を重ねてきた作品の最後。白鸚は万感を込め、感謝と「命ある限り」芝居を続ける決意を述べた。ファイナル公演は全10公演完売で約1万3000人を動員した。

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物語が終わった直後から白鸚は万雷の拍手とブラボーの声に包まれた。約1300人からスタンディングオベーションでたたえられた。カーテンコールで、ヒロインのアルドンザ役の次女松たか子からバラの花束を受け取り「ありがとうございました。初演から54年、足を運んでくださる皆さまのおかげで今日までやってまいりました。これからも命あるかぎり芝居を続けてまいります。本日はどうもありがとう存じます」と目を潤ませた。

スペインの劇作家セルバンテスが宗教裁判を待つ獄中で、遍歴の騎士ドン・キホーテの物語を即興劇で演じてみせる。真実や見果てぬ夢を追い求める男を描き、白鸚は、染五郎、幸四郎時代から、セルバンテス、キホーテことアロンソ・キハーナ、3つの役柄を演じ分けてきた。

最後は作品の骨というべき曲「見果てぬ夢」で締めくくった。「皆さまと一緒に『見果てぬ夢』を歌って終わりましょう」と声をかけ、従僕サンチョ役の駒田一、牢名主役の上條恒彦らも含め大合唱。観客も声を合わせ、涙をぬぐう姿があちこちで見られた。

何度も頭を下げ、劇場を見渡した。駒田と一緒に舞台から去る直前にもう1度振り向き、胸に手を当てて感謝を示した。通算1324回。54年間の思いを込めた。

常々「役者は一生修業」と話している。ひたむきで不器用に真実を求めるドン・キホーテに学び、自分を重ねてきた。白鸚の俳優人生、見果てぬ夢はこれからも続く。【小林千穂】

◆松本白鸚(まつもと・はくおう)1942年(昭17)8月19日生まれ。8代目松本幸四郎(初代白鸚)の長男。高麗屋。ミュージカル初出演は65年「王様と私」。歌舞伎では「勧進帳」の弁慶、「寺子屋」の松王丸など、器の大きな役柄が数多い。80歳を越えても初役に挑戦し新しい顔を見せる。映像ではNHK大河ドラマ「黄金の日日」「真田丸」、フジテレビ系「王様のレストラン」など。12年文化功労者、22年文化勲章。長男松本幸四郎、長女松本紀保、次女松たか子、孫は市川染五郎。

<キャストの変遷>

▼従僕サンチョ 69年初演~85年は小鹿敦(77~85年は小鹿番に改名)、89年は安宅忍、95~08年は佐藤輝、09~23年は駒田一

▼ヒロイン・アルドンザ 69年初演は草笛光子、浜木綿子、西尾恵美子、70~73年草笛光子、77~89年上月晃、95~01年鳳蘭、02~12年、22~23年松たか子、15年霧矢大夢、19年瀬奈じゅん

○…染五郎時代から「ラ・マンチャの男」を観劇してきたという神奈川県の女性は「白鸚さんにありがとうという気持ちです。(体への負担軽減のため)装置も変わりましたが、見続けてきて良かったです」と涙をぬぐった。昨年2月の公演が中止になり見られなかったという男性は「スタッフ、キャスト全員の愛で支えられた舞台でした。80歳の白鸚さんがすごすぎて、それだけでくるものがありました」と感激していた。