世界3大映画祭の1つ、第76回カンヌ映画祭の授賞式が27日(日本時間28日)フランスで行われ「PERFECT DAYS」(ドイツのヴィム・ヴェンダース監督、日本公開未定)に主演の役所広司(67)が男優賞を受賞した。役所の同賞受賞は初で、日本人俳優としても2004年(平16)に「誰も知らない」(是枝裕和監督)で受賞した柳楽優弥(33)以来、19年ぶり2人目。役所の世界3大映画祭での主演男優賞受賞は初めて。

また、是枝裕和監督(60)の「怪物」の脚本を手がけた、脚本家の坂元裕二氏(56)が、初の脚本賞を受賞した。邦画の脚本賞受賞は、20年に邦画で初受賞した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(44)と大江崇允氏(42)以来3年ぶり2度目。

邦画が、カンヌ映画祭の主要賞で同年度に複数の賞を受賞したのは、97年に役所が主演した「うなぎ」(今村昌平監督)が最高賞のパルムドールを、河瀬直美監督が「萌(もえ)の朱雀(すざく)」で新人監督賞「カメラドール」を受賞して以来。26年ぶりの、邦画“2冠”となった。

一方で邦画として、是枝監督の邦画としての前作「万引き家族」が18年に受賞して以来となる、5年ぶりの最高賞パルムドール受賞はならなかった。

「PERFECT DAYS」は、1987年(昭62)「ベルリン・天使の詩」でカンヌ映画祭監督賞も受賞の巨匠・ドイツのヴィム・ヴェンダース監督(77)の最新作。同監督が東京・渋谷を舞台に、役所を主演に撮影した最新作で自ら脚本も担当した。製作は、22年5月に東京で開かれた会見で発表された。ヴェンダース監督は、世界的に活躍する16人の建築家やクリエイターがそれぞれの個性を発揮して、区内17カ所の公共トイレを新たなデザインで改修する、渋谷で20年から行われているプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のトイレを舞台に新作を製作。そのため、11年ぶりに来日し、シナリオハンティングなどを行い、撮影は全て東京で行った。役所は、東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山を演じた。

「怪物」は、是枝監督にとって邦画3作ぶりとなる新作。同映画祭コンペティション部門への出品は、韓国映画に初めて挑戦した22年「ベイビー・ブローカー」に続き、2年連続、7回目の選出(カンヌ国際映画祭への出品自体は9回目)。監督は、自ら脚本も執筆するのが映画製作の基本スタンスで、外部の脚本家とのタッグは、95年の映画監督デビュー作「幻の光」以来28年ぶり。坂元氏が川村元気プロデューサーと作っていたプロット(あらすじ)を、19年に是枝監督に見せた“逆オファー”によって、初タッグが実現した。

◆役所広司(やくしょ・こうじ)本名・橋本広司。1956年(昭31)1月1日、長崎県諫早市生まれ。大村工業高校卒業後、上京して千代田区役所土木部に4年間勤務。200倍の難関を突破し78年、無名塾に入る。初舞台は同年「オイディプス王」。80年、NHK「なっちゃんの写真館」でドラマ初出演。83年の同大河ドラマ「徳川家康」で織田信長を演じ注目される。96年の映画「Shall we ダンス?」では主要映画賞を総なめ。ほかに「うなぎ」「失楽園」「ユリイカ」「SAYURI」「バベル」「パコと魔法の絵本」など。179センチ、血液型AB。

◆坂元裕二(さかもと・ゆうじ)1967年(昭42)5月12日、大阪府生まれ。19歳で第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞しデビュー。同系の07年「わたしたちの教科書」で第26回向田邦子賞、11年「それでも、生きてゆく」で芸術選奨新人賞、13年「最高の離婚」で日本民間放送連盟賞最優秀賞。日本テレビ系の10年「Mother」で第19回橋田賞、14年「Woman」で日本民間放送連盟賞最優秀賞。TBS系の17年「カルテット」で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。近年の作品には21年のフジテレビ系「大豆田とわ子と三人の元夫」、22年の日本テレビ系「初恋の悪魔」など。16年から東京藝術大大学院映像研究科映画表現技術脚本領域教授。

◆「PERFECT DAYS」東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司)は、淡々と過ぎていく日々に満足している。毎日を同じように繰り返しているように見えるが、彼にとってはそうではなく、常に新鮮で小さな喜びに満ちた、まるで風に揺れる木のような人生である。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読みふけるのが喜びで、いつも持ち歩く小さなフィルムのカメラで木々を撮る。平山は木が好きで、自分を重ねているのかもしれない。ある時、平山は思いがけない再会をし、それが彼の過去に少しずつ光を当てていく。平山が休日に訪れる居酒屋のママを歌手の石川さゆり(65)が演じる。石川が女優として映画に出演するのは、1979年(昭54)の映画「トラック野郎・故郷特急便」以来、44年ぶりとなる。ママの元夫を三浦友和(71)が、平山の妹を麻生祐未(59)が演じる。

◆「怪物」大きな湖のある郊外の町で起きた、よくある子供同士のケンカに見えたものが、息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たちの主張が食い違い、次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちがこつぜんと姿を消す物語。シングルマザー麦野早織を安藤サクラ(37)沙織の息子・湊を黒川想矢(13)湊の友人の星川依里役を柊木陽太(11)担任教師の保利道敏を永山瑛太(40)が、それぞれ演じた。劇中には、黒川が演じた湊と柊木が演じた依里が、男の子同士でお互いを好きになっていく過程と、その心の動きが繊細かつ克明に描かれている。2人は演じるに当たり、性的シーンで俳優と製作側を取り持ち、ケアするインティマシーコーディネーターや、保健体育の先生の指導も受けている。