「人間の証明」やノンフィクション「悪魔の飽食」など、幅広いジャンルの作品で知られるベストセラー作家の森村誠一さん(もりむら・せいいち)が24日、死去した。90歳だった。

森村さんは1933年(昭8)、埼玉県熊谷市生まれ。日本で最後の空襲となった「熊谷空襲」を体験し、「反戦平和」の原体験となった。地元の高校を卒業後、会社勤めを経て、青学大文学部英米文学科に進んだ。その後は得意の英語を生かしてホテルマンとなり、都内のホテルに勤務している時、作家になりたいとの思いを強くした。

目の前に大手出版社の社屋が完成して梶山季之、黒岩重吾、笹沢左保、阿川弘之と言った作家が定宿としていた。このうち梶山と親しくなって原稿を預けるようになった。その原稿を読んだのが原点となった。

65年にホテルニューオータニのフロント時代に執筆したエッセー「サラリーマン悪徳セミナー」でデビュー。69年、ホテルを舞台にしたミステリー小説「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞した。翌年に刊行した「新幹線殺人事件」、73年に日本推理作家協会賞を受賞した「腐蝕の構造」などの話題作を続々と発表した。

76年には西条八十の詩をモチーフにした「人間の証明」を発表。松田優作さんが主演した映画とのメディアミックスで大ブームを呼んだ。映画の中では、ホテルマン時代の経験を生かして、殺人事件が起きた付近のホテルのフロント役として出演もし、警察に対応するシーンを演じた。

77年に刊行された「野性の証明」も故高倉健さんや故松方弘樹さん、薬師丸ひろ子らの主演で映画化もされた。

81年のノンフィクション「悪魔の飽食」は旧日本軍が中国で行ってきた人体実験について告発し、大きな反響を呼んだ。このほか、「棟居刑事シリーズ」をはじめ多くの作品がテレビ化された。

また、歴史の中での人間ドラマを描きたいと「忠臣蔵」「新選組」といった時代小説も書くなど、幅広い活躍を見せていた。