9月に25歳団員が転落死し、10月に外部弁護士による調査チームを立ち上げていた宝塚歌劇団が14日、兵庫県内で緊急会見し、いじめやハラスメントは「確認できなかった」とする調査チームの報告を伝えた。一方で、遺族側が急死直前約1カ月間の時間外労働が約277時間と指摘した点には「強い心理的負荷がかかっていた可能性が否定できない」と指摘した。木場健之理事長(60)は、12月1日をもって引責辞任する。【松浦隆司、村上久美子】

神妙な面持ちで会見した木場理事長は冒頭、「ご遺族の皆さまには大切なご家族を守れなかった。心より深くおわび申し上げます」と頭を下げた。だが、劇団による調査チームの報告は、遺族側の主張とは合致しない内容だった。

9月30日に25歳宙組団員が兵庫県宝塚市内の自宅マンションで転落死していた問題で、遺族側が主張する上級生によるパワハラについて「指導の態様や手段が相当性を欠くものとは断言できない」とし、いじめ、パワハラは否定。LINEを通じてのハラスメント行為についても「確認できなかった」とした。

遺族側は10日に代理人が会見し「うそつき野郎」などと言われたとしていたが、これには「この言葉をはっきり聞いたという者もいなかった」として「断定できない」と評価した。

調査は宙組66人中62人、元宙組生1人などを対象とし、宙組生のうち4人はヒアリングに応じなかったが、その理由は「差し控える」とした。

一方で、死亡した団員は直近1カ月半の連続勤務など、過重労働の状態にはあった。宝塚歌劇では、宝塚大劇場、東京宝塚劇場と続く本拠地作の途中、入団7年目までの生徒による新人公演が東西で1回ずつ行われ、本公演の開幕後に稽古が本格化する。死亡団員は新人公演最上級生で、成績最上位者「長の期の長」の立場だった。同期の休演もあり、娘役2人で公演をけん引する必要があった。

下級生と上級生の間に立ち、自主稽古や帰宅後も娘役にはアクセサリー作りなどの務めもある。睡眠時間が3時間に満たない日も多く、「精神障害を発病させる恐れのある強い心理的負荷がかかっていた可能性が否定できない」とし、深刻な過重労働の状況に追い込まれていたことは認めた。

団員をめぐっては今年2月、週刊誌などでいじめが報じられ、調査報告では「故人が週刊誌にリークしたのは自分であると周囲の劇団員から疑われているのではないかと心配し、悩んでいた可能性は否定できない」ともした。

そもそも、長時間労働を含めて、精神衛生上の環境は厳しいものだった。これらのことから、劇団では過密スケジュールの見直しも発表。年間興行数、1週あたりの公演数も減らす。自主稽古、新人公演のあり方も再考し、宙組だけではなく、全組に、下級生への指導方法などについて整理、合理化を促すという。

来年110周年の歌劇団。木場理事長は「伝統を壊すということをしなければならないかもしれない。そういう強い危機感をもって、我々も取り組んでいます」とも言う。

遺族には会えておらず、謝罪はできていないが、木場氏は「ご遺族の方とは丁寧にお話をさせていただいて対応していきたい」と話していた。

■遺族側は再検証求める

宝塚歌劇団が公表した調査報告書を受け、急死した女性劇団員の遺族側代理人弁護士が14日、都内で会見を行い、パワーハラスメントについての再検証を求める意向を示した。

調査報告書では、長時間業務により心理的負荷がかかっていた可能性は否定できないとしたものの、女性がヘアアイロンを当てられるなどした事件や上級生による叱責(しっせき)や暴言などのパワハラは否定している。

報告書に対する意見書では「縦の関係を過度に重視する風潮をそのまま容認し、パワハラ行為を認定しないのは、一時代前の価値観に基づく思考」と強調し、ハラスメントをなくす提言がなされていないことや、遺族が求めていた謝罪、適切な被害補償についても言及されていないことも指摘。弁護士の川人博氏は「ご遺族は、ハラスメントについて、ここまですべて否定するのかと悔しく思っている。落胆と許せないという気持ちを持っている」と話した。

また川人氏は「縦の関係を重視することでいい劇団になったということを哲学として信じている人がいる。世の中の価値観、若い世代の感受性も変わってきている。時代が移っていく中、これからどのような人間関係をつくるのか。宝塚始まって以来の悲劇的な事件なのだから、今検証しないでいつ検証するのか」と述べた。

今後遺族側は、報告書に関する意見書を劇団に提出する。併せて、遺族側と劇団、阪急側との代理人による面談交渉を11月末までに行う予定だとした。

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