漫画家の井上雄彦氏(56)が自らの原作を映画化し初めて監督を務めたアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」が、石原裕次郎賞に輝いた。国内興行収入(興収)157億3000万円、中国や韓国など全世界興収は390億円に達する記録的ヒットとなり、井上監督は新人賞も受賞。石原裕次郎賞には300万円が贈られる。

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映画監督になろうとは、全く思っていなかった。96年6月に、自分の思う形で「SLAM DUNK」の連載を終えたが、続きを読みたいというファンの思いは連なり、応えられていないという思いが心の奥底に積もっていった。09年に東映アニメーションから、劇場版アニメ化企画とともにビデオレターが送られてきたことをきっかけに複数回、パイロット版が送られてきて製作を依頼された。14年に映画化を決意したのは、ファンに届ける最良の形だと思ったからだ。

「1つは…やっぱり、ずっと持ってこられた熱意があった。ずっとやってこなかった分、今、映画をやることに対する驚きもあるだろうし、喜んでもらえるんじゃないかなと。監督という役をやるかどうかは別として、作品に対する責任があるので、映画化が、となった時には、自分もガッツリ関わらないといけないとは思っていましたね」

「THE FIRST」という文言に込めた思いが製作の軸となった。

「当時の読者の方たちには『SLAM DUNK』を初めて見る経験って絶対、出来ないですけども、それが出来たら、すごくうれしいだろうと。映画で、初めて見る『SLAM DUNK』を届けられたら一番いいんじゃないかということで始めましたね。新しい世代の方たちにも初めての『SLAM DUNK』を新たに見て欲しい」

連載当時は、右肩上がりに成長する桜木花道を勢いを持って描いた。2年生の宮城リョータを主人公に描いたことは、人生の年輪を重ねた上での必然だった。

「傷ついた者の側に立つということは連載当時、出来なかったことかも知れない。そこに視点を置くのは、今だからこそ出来ることかなと思いますね」

「人間を描くのが仕事」だからこそ、15年に漫画と同様にネームを描くところから始めた。ただ、脳内に湧き上がったものを自らの手で表現できる漫画と違い、製作陣に一から説明することに苦悩した。

「何がやりたいか、どれがゴールか、自分が何を感じているかを細かく…自分の皮をはいで、中を見せるみたいな作業なので結構、きつい感じがしました」

出会えなかったら、漫画家になれなかったというバスケ、そして映画へのリスペクトが今年の日本映画を代表する1本に結実した。

「たくさんの方に映画館に足を運んで頂いて、そこで見てもらうというのが、本当に目指したことだった。感謝しています」

先は「全くの白紙です。何も考えていない」と語る…でも、井上雄彦は1人の監督、映画人になった。【村上幸将】

 

◆井上雄彦(いのうえ・たけひこ)1967年(昭42)1月12日、鹿児島県生まれ。88年に第35回手塚賞入選作「楓パープル」で漫画家デビュー。98年に「モーニング」(講談社)で「バガボンド」、99年には「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で車いすバスケットボールを題材にした「リアル」の連載を開始。06年に「スラムダンク奨学金」を創設。

◆「THE FIRST SLAM DUNK」 沖縄で生まれ育った湘北のポイントガード・宮城リョータは、地元で有名な選手だった3つ上の兄の背中を追うようにバスケにのめりこむ。高校2年生になり桜木、流川、赤木、三井たちとインターハイ王者、山王工業に挑もうとしていた。

▼石原裕次郎賞・選考経過 「監督って全体を見て俳優や声優区別なく、スタッフを見て作ると考えるのが裕次郎さん。今回は中国や海外でも人気になった」(河内利江子氏)。国内外でのヒットが認められ、第1回投票で「ゴジラ-1.0」に競り勝ち過半数獲得。

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昨年「キングダム2 遥かなる大地へ」で石原裕次郎賞を受賞した佐藤信介監督(53) 何年に1度観られるかどうかの革新的な作品に、観客の誰もが驚かされ、原作のファンばかりでなく、昨今、映画というものにやや停滞感を感じていた映画ファンも、この作品によって覚醒しました。画、動き、音という映像の力の融合が、近年見たことのない新たなエンターテインメントの形で結実していました。絵を描き続けてこられた井上雄彦監督が、その実、動きと音を描き続けられていたことを改めて教えられました。日本から世界を変える興奮を生み出したこの作品は、同時に、この賞の理念に理想的な作品だったと思います。このたびは、受賞、本当におめでとうございます。

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昨年「PLAN 75」「冬薔薇」「ある男」「女子高生に殺されたい」で新人賞を受賞した河合優実(23) 井上雄彦さん、このたびはご受賞おめでとうございます。2000年生まれの私にとっても、中学のバスケ部時代、スラムダンクは必読書でした。世代を超えて愛され続ける作品を自ら監督されたこの映画が、また新たな形で日本中に熱をもたらしたこと、ほんとうに素晴らしいことだなと感じています。謹んで、お祝い申し上げます。

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コロナも落ち着き、上映を待っていた沢山の作品の中で、第36回石原裕次郎賞を受賞した、「THE FIRST SLAM DUNK」は、中国、韓国でも「スラダン」旋風を巻き起こしたそうです。監督の井上雄彦さんは新人賞も受賞されました。人気漫画とは言え、時を経てあえて映画化に臨んだ監督、関係者の方々の気概を、「諦めてはいけない」と言う信念を作品から十分に感じ取る事が出来た素晴らしい作品です。

最後になりましたが、受賞者の皆さまのさらなるご活躍、映画界のさらなる発展をお祈りいたします。

石原音楽出版社 取締役名誉会長 石原まき子