TBS系日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」で見せる妻夫木聡(44)の涙が印象的だ。

税理士の仕事に希望を見いだせなくなった主人公が佐藤浩市ふんする馬主に出会い、競馬の世界で熱い思いを取り戻していく。産地からレースまで、サラブレッドを巡るさまざまな思いが交錯するドラマは、37年前の映画「優駿」を思い出させる。

もの静かな男が、熱い涙を絞り出す。そんな心情がひしひしと伝わってくる。曲折を経ても根はまっすぐ。そんな役が良くハマる。

今年は持ち味が生かされた作品が重なった。映画「宝島」が典型だ。米軍統治下の沖縄を舞台にしたこの映画の公開前に役作りの一端を明かしている。

「撮影前にガマや御嵩に行ったり、いろんなところで沖縄の人たちの思いを感じることがグスク(役名)の役作りでもありました。しっかりと沖縄を感じながら芝居をしなきゃいけないなというのは、常に強く感じていました」

19年前の「涙そうそう」も沖縄ゴザが舞台だったが、この時の撮影で知り合った人々との交流も続けているというから、沖縄への思いは深い。一方で、主人公の20年間を演じることから、自身の人生、その時々の感情を思い出しながらの演技だったようだ。

地に足の付いた、そして前半の青年時代も自然に「若者」に見える好演だった。

NHKテレビ小説「あんぱん」の八木上等兵役は口数が少なく、感情を面に出さない設定だったが、その表情から胸に秘めた熱い思いが伝わってきた。戦時中の兵士への成り切りぶりや、戦後の起業家としてのたたずまいに入念な準備が感じられた。

「サ・ロイヤルファミリー」に際してもそんな事前リサーチがあったのではないかと想像する。

実は14年前の映画「マイ・バック・ページ」で、そんな準備の一端に立ち会ったことがある。

評論家の川本三郎さんが「週刊朝日」や「朝日ジャーナル」の記者として活動していた頃の回想録が原作で、学生運動が盛んだった時代を背景に描かれた作品だ。主人公は記者ということで妻夫木が「職場」の空気を体験したいと撮影前に日刊スポーツの編集局を見学に訪れ、案内役を務めることになった。

妻夫木は記事を書くデスク周りの様子をじっとながめ、出稿までの段取りの説明を興味津々に聞いてくれた。「是非とも」ということで、整理部に移動して紙面を組み上げる仕組み、さらには工場に移動して輪転機も間近に見てもらった。

記者が整理部と直接話す機会はほとんどないし、輪転場まで行くことはまずない。が、妻夫木の好奇心は尽きなかった。深い役作りとはこういうものなのか、と思った。

「ザ・ロイヤルファミリー」の涙にもいろんな思いと体験が込められているに違いない。【相原斎】