東映が、4月3日に都内で仮面ライダー生誕55周年発表会を開いた。
この日は藤岡弘、(80)が主演し、1971年(昭46)にスタートした特撮ドラマ「仮面ライダー」第1話「怪奇蜘蛛男」が午後7時30分から放送された日で「仮面ライダーの日」に制定された。
壇上には、藤岡が演じた仮面ライダー1号・本郷猛の愛車サイクロンが鎮座しており、冒頭に登壇した吉村文雄社長(61)が、いきなりサイクロンにまたがった。「当時、小学1年生だった私も、テレビにかじりついて見ておりました。おどろおどろしい内容で、あまりの怖さに、その晩、眠れなかったことを覚えています」と、自身の子供の頃の思い出を語った。
東映は、2023年に発表した中長期計画で「愛される『ものがたり』を全世界に」との理念を掲げた。そのことを踏まえ、吉村社長は「『仮面ライダー』こそが『愛される『ものがたり』の象徴的な存在と位置付け、全世界で愛される知的財産(IP)へ変身を遂げたい。それこそが、私どもの野望でもあります」と口にした。そして、取材陣、関係者に向かって「その第1歩として、さまざまな、たくらみをお知らせし、共犯者になって、ともに『仮面ライダー』を世界に広げていただきたい」と呼びかけた。
この日は例年、夏ごろに発表する新仮面ライダーのタイトルが「仮面ライダーマイス」だと電撃発表した。また、新たに映画レーベルを3つ立ち上げ、佐藤健(37)が主演し07年に同系で放送された「仮面ライダー電王」の20周年記念映画を製作することも発表した。各企画を発表した担当者が、降壇時にバイクに乗るマネをして退場するなどして、集まったメディア、関係者を笑わせた。白倉伸一郎上席執行役員は「各担当者が、茶番を繰り広げますので、冷めた薄笑いを浮かべてお聞きいただければ…」などと評した。
確かに記者も、薄笑いを浮かべたところが幾つかあった。それは、悪い意味ではない。「東映らしさが、戻ってきたな」という実感を伴った、うれしさに近いものだった。本社ビル・東映会館の再開発を受けて、1960年(昭35)9月20日に開館した丸の内TOEIが25年7月27日に閉館。本社が京橋エドグランに移転以降、感じられなかったものを感じたからだ。
それは、破天荒さだ。他の配給・宣伝各社では、やりそうもない…もっと言えば、許されないようなことも、東映とならできる…。吉村社長が口にした「共犯者」として手を組むことができる。そして組んだ際の温度感、肌感が強いのが、東映という映画会社の最大の魅力だろう。
時効も、とうに過ぎただろうから問題ないであろう、東映の破天荒さがかいま見えるエピソードを紹介する。大ヒットを狙って公開前に宣伝を大展開し、世間に一定以上、知名度は高まっていたであろう、ある作品の宣伝担当者から耳打ちされた。
「もし、大ヒットしたら、●●さんに頭から真っ青なペンキをかぶってもらおうと思うんですけど…面白いと思いません? 紙面、デカく広がりますかね!?」
●●さんとは、世の中で広く知られる、その作品の主演俳優である。「そりゃあ、面白いけど…そんなこと、できるの?」と聞き返すと「面白いっすよね。大ヒットしたら、やってもらいますよ。きっと、分かってもらえます。大丈夫ですよ。紙面、空けておいてください!!」と元気な声が返ってきた。あの俳優●●が、頭から真っ青なペンキをかぶった写真が紙面を飾り、世の中に発信したら話題になるだろうと思い、着々と準備、根回しを始めた。
残念ながら、その作品は公開後、予想を大きく裏切る低調なスタートにとどまり、結果的にはコケてしまった。公開1週間後に、念のため当該担当者に「コケちゃったけど…起死回生の景気付けに、●●さんにペンキ、かぶってもらう?」と聞くと「もう、そんなこと、できるわけないじゃないですか! ●●さんに、お願いなんか、できませんよ!!」と、あっさり却下された。
一見、悪乗り企画にしか見えないだろうが、当該担当者は、ふざけて●●に頭から真っ青なペンキをかぶせようとしたわけではない。当時、日本全体が盛り上がっていた、ある事象を象徴する色が青で、●●が全身、真っ青に染まれば、世の中のムーブメントと連動して話題になる可能性は十分、あった。それが理解できたし、面白いから、話に乗った。実現していたら、きっと大きなインパクトがあっただろう。
イベントも、破天荒なものが少なくなかった。13年7月に、グルメ漫画をアニメ映画化した「劇場版トリコ 美食神の超食宝」(座古明史監督)完成を記念して、東映本社屋上で行われたイベントはマグロの解体ショーだった。全長140センチ、53キロの国産生本マグロを屋上に持ち込み、ゲスト声優を務めた真矢みき(現ミキ、62)が、刃渡り70センチの包丁をマグロに入れ、イベント後には取材陣に刺し身が振る舞われた。映画会社の屋上で、マグロの解体ショーなど聞いたことがなかった。
14年8月に、同じく東映本社屋上で行われた、唐沢寿明(62)の主演映画「イン・ザ・ヒーロー」(武正晴監督)完成披露プレミアでは、作品のキーワード「魂に火をつけろ」にちなみ、炎天下の屋上で火をたいた。結構な本数の携帯ガスボンベで起こした炎を前に、俳優陣がフォトセッションを敢行。登壇した一部の俳優が「暑いよ」と結構、真顔で怒っていたが、風下の位置から撮影した我々メディアの方が、熱気を全身で浴び、よほど熱かったに違いない。
そんな東映も25年は、日本映画界が興収での発表を始めた00年以降、最高記録となる年間興収2744億5200万円を記録した中、同81億円と大苦戦の1年に終わった。同じメジャーと言われる東宝が1438億円と国内の興収の約半分を稼ぎ、松竹も188億円を挙げた中、水をあけられた。
ただ、26年年明け以降、反転攻勢の兆しを見せている。柄本佑(39)の主演映画「木挽町のあだ討ち」(源孝志監督)は、2月27日の公開から3日間で興収2億円、15万人動員と好スタートを切った。さらに、2日に発表された、ワールドカップ(W杯)北中米大会に出場する、サッカー日本代表の軌跡を収めたドキュメンタリー映画「SAMURAI BLUE Project for FIFA World Cup 2026『ONE CREATURE』無数の個性、ひとつの生きもの。」(岸枢宇己監督、6月5日公開)も配給する。同作は、サッカー日本代表初の映画で、スポーツドキュメンタリー映画としては史上最大規模の、全国230館以上での公開となる。
そして、今回の仮面ライダー生誕55周年発表会と、アグレッシブな動きを見せている東映。サイクロンにまたがった吉村社長の背中を見て、また以前のように、破天荒で、面白いことを一緒にできないかと、ひそかに期待した。【村上幸将】



