<第60回NHK紅白歌合戦を語る(6)=美川憲一>

 白組の豪華衣装と言えば美川憲一(63)だ。68年から7年連続で出場し、91年に返り咲き。以来、小林幸子との衣装対決が目玉になっている。初期のころは、シックなスーツで直立不動で歌う印象だが、当時から派手の片りんを見せていた。尊敬する故越路吹雪さん(享年56)から「自分を磨きなさい。いいものを着て、いい宝石を着けなさい」とアドバイスされたからだ。「昔も渦の派手な模様の着流しを着たり、真珠のネックレスを何重にも巻いたり、自分なりに工夫してね。着物にスパンコールをつけて華やかにしたら、(NHKから)『男はあまり派手にしないでください』って注意されたのよ。今じゃ考えられないでしょ!」。

 特大のエメラルドの指輪を着けて出場しようとした際、故美空ひばりさん(享年52)に楽屋に来るように言われた。ひばりさんは「聞いたわよ。エメラルド買ったんでしょ。私のより大きいらしいじゃない。見せてよ」と切り出した。「もうビックリして。『ひばりさんほどの上等な指輪ではありません、おこがましいです』って答えて。最後まで見せずに本番だけ着けたのを覚えています」。

 75年に落選した時は、地方でNHK「のど自慢」の仕事をしていた。スタッフから落選を聞かされ、美川は「あっ、そう」と一言。「周囲ははれものにでも触るようにビクビクしていたから、拍子抜けしたらしいわね。私は『大みそか空いた!』って海外に行ったわ。NHKの仕事で紅白落選を聞くなんてね。フフフ。後で悔しさがジワジワとこみ上げてきたことは覚えています」。

 落選後はメディアの露出が減り低迷したが、コロッケが美川のモノマネをしたことで再ブレークし、17年ぶりに紅白のステージに戻った。「幸ちゃん(小林幸子)の路線を白組でねらうのは私しかいないと思ってた。そういう闘志が出てきたのもこのころよね」。初期のエメラルドは不遇な時代に売ってしまったが、再浮上した時、自分へのご褒美で30カラットのエメラルドを買ったという。最も思い出に残る紅白は、引田天功とタッグを組み空中浮遊したイリュージョンだ。「初期は7年連続だったから、8年連続で出られたらと思ったらいつの間に18年。今回の60回は何が何でも出たかった。紅白の歴史の中で『幸ちゃんとの衣装対決』という事実があったということが幸せ」。越路さんのアドバイスを受け継ぎ、今年もド派手な美川が茶の間をわかせる。

 ◆美川憲一(みかわ・けんいち)

 本名・百瀬由一。1946年(昭21)5月15日、長野県諏訪市生まれ。65年「だけどだけどだけど」で歌手デビュー。翌年「柳ケ瀬ブルース」が大ヒットし、人気歌手に。以後「釧路の夜」「さそり座の女」などヒット。91年、17年ぶりにNHK紅白歌合戦にカムバック。シャンソンもライフワークとして続け、現在芸能生活45周年の最中。血液型A。

 [2009年12月23日9時46分

 紙面から]ソーシャルブックマーク