4月29日未明に東京都大田区の丸子橋から多摩川に転落して死亡したウクレレ漫談家牧伸二さん(享年78)が、会長を務める東京演芸協会の会員から会長として保管する約650万円の開示を求められていたことが30日、分かった。歴代会長から引き継がれた会長が保管する資金で、牧さんが舞台をすっぽかした28日夜の理事会で牧さん自身が通帳を持って開示する予定だった。また、牧さんは5月30日の総会で14年間務めた会長を退任する意向だったという。

 関係者によると、牧さんが会長を務める東京演芸協会では歴代会長から引き継がれ、会長が保管する資金があった。額は約650万円。協会で大きなイベントを行う時や協会運営で資金が足りなくなった時などに、会長の決裁で補てんするプール資金だった。

 しかし、牧さんは99年に会長に就任し、14年の長期政権となり、昨年暮れから「牧さんが私的に使っている」とのうわさが流れた。一部会員から約650万円がまだあるのか疑義が出されたため、牧さんは舞台をすっぽかした28日夜に開催予定の理事会で通帳を持参し、資金があることを開示する予定だった。しかし、牧さんは現れず、その後、丸子橋から転落して亡くなったため、資金をめぐる真相解明はかなわなかった。

 この日の緊急理事会後に取材に応じた原一平副会長は「牧会長には通帳を持ってきて、疑いを晴らしてほしかった。僕らは会長を信じています」と話した。また、原副会長によると、牧さんは「14年も会長をやってきたし、心機一転し、新しい会長の下でやってほしい」と5月に開催される総会で会長を退任する意向だったという。退任の場合、会長がプールした資金を新会長に引き継ぐが、原副会長は「牧会長が金に困っている様子はなかった」と話した。

 一方で、牧さんは目の視野が狭くなり、耳がよく聞こえなくなるなどの体調不良に悩んでいたという。02年に脳出血で倒れた後にリハビリで復帰したが、つえを手放せず、ウクレレも以前のように弾けないなど、思うような活動ができなかった。28日午後2時ごろ、牧さんが最後に立ち寄った浅草の喫茶店の関係者によると、「30分ほどで出て行った。いつもは明るい人なのにふさぎ込んだ様子だった」という。それが目撃された最後の姿になった。

 ◆東京演芸協会

 落語、漫才以外の演芸の芸人によって62年に設立された。現在、会員は113人。初代会長は三味線漫談の柳家三亀松、2代目は漫談の牧野周一、3代目は奇術のアダチ龍光、4代目は浪曲ものまねの前田勝之助、5代目はものまねの桜井長一郎が務めた。