「64歳!? まぁ、お若い」とおだてられたから、こっちも「そうすかっ!」と若者言葉になった。

 4月の終わり、シルバー人材センターを訪れた。5月末日の、定年延長終了1カ月前である。退社がさし迫り、次の職を探さなければならない。一方で年金生活も始まるわけで、生活がにわかに逼迫(ひっぱく)するわけではないが、「毎日が日曜日」でも困る。

 当初、人材センターに電話を入れると「入会説明会・登録会」(月2回ほど)に出席して欲しいと言う。予約制で、日にちを指定された。午前9時半~正午まで拘束される。

 後日自宅に厚めの封書が届き、開くと「会員ガイドブック」「入会申込書兼会員票」「緊急連絡先/配分金口座振り込み届」「個人情報の取り扱いに関する同意書」に加え、配分金(給料にあたる)振り込みのための、ゆうちょ銀行口座開設を求めている。慌てて郵便局で手続きをし、書類に必要事項を書き込み、押印をして当日を迎えたわけである。

 会場をのぞくとすでに女性が2人、着席している。バックに軽音楽が流れているのは高齢者に対する配慮であろうか。最終的に全18席に男性4人、女性7人が集合して説明会は始まった(いずれも私より高齢と思われる)。センター所長のあいさつ、就業に関する心構え、保険対応など子細な説明のあと、就労者たちの日常を収めたビデオが流された。

 ご存じ外国人タレントのダニエル・カールが現場を訪ね、高齢者たちの活動ぶりをリポートする。大学時代に交換留学生として来日、関西外国語大学に留学し伝統芸能の文弥人形を学んだ、その人の山形訛り(なまり)は部屋を和ませる。

 これらレクチャーされた上で「では皆さん、人材センターに登録しますか」という問い掛けとなる。私の隣席にいた男性高齢者は「わしゃ、止めとくわ」と退場。残った10人が面接、顔写真撮影と相成った。

 「免許などお持ちで?」と担当者が問うたのは、私の“身上書”特技欄が空白であったからである。「ありません…」と小さく答えると、空白に大きく斜線が引かれた。そう、新聞記事を書くくらいしか特技(であろうか)がない。情けない。

 はたして職はあるのだろうか。「希望する仕事」を記したA4用紙は表裏にビッシリ職種が連なる。大ざっぱに挙げれば施設管理、物品管理、屋内、屋外作業、サービス、技能を要する仕事、製作加工、経理事務、一般事務、筆耕、特殊技術、教育指導、コンサルティングなどなど…一部、やってやれそうな職種もあるが、さて。

 目を凝らすと隅に、「翻訳編集」の項目がある。

 「これならば」と身を乗り出したら担当者、「この仕事は現在、注文、依頼が入っておりません」とあっさり却下。

 そうですか。こりゃ、苦戦しそうである。

【文化社会部編集委員・石井秀一】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「新聞に載らない内緒話」 2018年5月)