始まる前からいろいろなことが起きた東京オリンピック(五輪)が幕を閉じた。批判されるテーマも多かったが、ここまでみんなが「ひどい」と納得する出来事(番外編だが)はなかっただろう。河村たかし名古屋市長(72)の金メダルかじり問題だ。

女子ソフトボールで金メダルを獲得した後藤希友選手の表敬訪問時にメダルを見せられ、実際にメダルを取ったわけでも、選手でもないのに、口を付けてかじってしまった。コロナ禍、選手への敬意も感じられないとして、後藤選手の所属先トヨタも厳しいコメントを発表。一発アウトな行動だった。

河村氏のキャッチフレーズは、昔から「気さくな○○歳」。ホームページのトップに登場する写真もほとんど変わらず、年齢だけが更新されていく。国会議員時代から名古屋弁を駆使し、歯切れ良く身近な問題に切り込むのが身上。「気さくな」と銘打つだけに、親しみやすさが大きな武器でもある。

国会議員時代から日本の税のあり方に異を唱え、地域政党「減税日本」も立ち上げた。選挙の演説では「(減額した知事の)年収800万じゃ毎晩、あまりいい焼酎も飲めん」と言い、大衆的な焼酎の銘柄を挙げて聴衆の笑いを取るのが「鉄板」ネタの1つだった。

しかし、今回のメダルかじり問題では、その「気さくな」部分が大きく裏目に出た。選手とフレンドリーに接するのはいいが、立場は市長。公職にある者として最低限の品格は必要で、気さくキャラをはき違えることはあってはならない。

河村氏は今年4月の市長選で5度目の当選を果たしたばかり。ただ、任期が進むごとに、かつての歯切れの良さは鈍ってきたように感じていた。大村秀章知事に対するリコール不正署名問題での対応もそう。以前は盟友を強調していた大村知事とのバトルばかりが、最近は目立っていた。

旧民主党の国会議員だった2008年、党代表選に出馬したいが20人の推薦人が集まらない河村氏にインタビューした。自称「総理をねらう男」だが、5度出馬できず、6度目の挑戦も難しいという中だった。訴えようとした「庶民革命」というテーマ、議員のボランティア化など温める政策は身近な疑問の本質を突いていた。それでも賛同者は集まらず「くそおもしろくない」とグチも漏らした。

しかし、当時は党代表選にすら出られなかった人が、今は市長選に出れば勝ってしまう。「あのキャラクターのなせるわざだよ」という分析を耳にしたこともある。

河村氏の「鉄板」ネタといえば、選挙当選時の水かぶりもある。2011年2月に行われた知事、市長、名古屋市議会解散の賛否を問うトリプル選挙でその様子を見て面食らった。氷の入ったバケツ5~6杯分の水を頭からかけられ、喜んでいた。こういう型破りな側面も、政治家・河村氏を支えてきた持ち味だったと思う。

「気さくな」「型破りな」…。これまでは好意的に受け入れられる側面も多かった河村氏の持ち味は、今回完全に暗転した。気さくで型破りなキャラは受け入れられても、その延長で一歩踏み込んでしまった領域は「非常識」だったからだ。

「あのキャラクターのなせるわざだよ」。そんな評価は今後、変わっていくのかもしれない。