自民党総裁選は、9月29日の投開票まで第4コーナーに入った。党員の中には、投票用紙が送付されてすぐに意中の候補に投票したという人がいる一方で、最後まで迷ったという人もいた。「大混戦」といわれる今回の総裁選を、象徴しているようだ。

毎日、総裁選に関するニュースはあふれているのだが、ふと考えてみると、今回の総裁選を的確に表すキャッチーな言葉や、各候補者による「名言」は、なかなか見つからない。「大混戦」以外では、河野太郎行革担当相を支持する石破茂、小泉進次郎両氏を合わせた「小石河連合」という言葉が出ているくらい。迫力はない。名前の一部を引用する造語は、2006年総裁選に出馬した4人を指した「麻垣康三」があったが、あの言葉は期間中、とても耳になじんでいた。

各候補の発言は、大混戦といわれるためか、慎重なものが多く、各候補者ならではのキャラが立ったものも数えるほどだ。

過去の総裁選では、戦いの構図を表す端的でキャッチーなフレーズがあった。その年の新語・流行語大賞に選ばれた言葉も少なくない。

有名なものでは、1998年総裁選に出馬した小渕恵三、梶山静六、小泉純一郎各氏を表現した「凡人・軍人・変人」。当時自民党の衆院議員だった田中真紀子さんの評だ。各氏の特徴やイメージを端的に表現していた。その年の流行語大賞の授賞式で、真紀子さんは「私は別に普通の感想を話してるだけ」と、話していたが、真紀子さんらしい言葉のセンスだった。

流行語大賞には入っていないが、2001年の総裁選で勝利した小泉氏が、各地の街頭演説で絶叫した「私は自民党をぶっ壊します」というフレーズは、選挙戦の行方を確実に決定づけた。小泉氏が地方票(当時は予備選)で地滑り的に勝利し、この結果を受けて、本選では出馬していた亀井静香氏が断念して小泉氏支持に回ったほど。亀井氏は小泉氏と政策協定を結んだとして支持に回ったものの、重要ポストを得ることはなかったが。

ポストに絡む「名言」といえば、変わったところで、その小泉氏が再び選出された2003年の総裁選で飛び出した、野中広務氏の「毒まんじゅう」発言。野中氏が所属した旧経世会の流れをくむ橋本派幹部だった村岡兼造元官房長官らが、自派閥の候補を支援せず小泉氏支持に回ったとして「毒まんじゅうでも食ったのか。情けない」と発言したもの。毒まんじゅう=選挙後の重要ポストのことで、ポスト密約の見返りに寝返ったのではないかという指摘。ザ・権力闘争の生々しさでもあった。

自民党幹事長や官房長官も務め、豪腕政治家で知られた野中氏はその直後、国会議員を引退した。「毒まんじゅう」も年末の新語・流行語大賞に選ばれたが、授賞式で野中氏は「政治生命をかけた言葉だった」とした上で「仕掛けた人も分かった。うまく食った人も、静かに食った人もおる。食い損なって大変な傷を負った人もいる」と「解説」してみせた。

これらの発言は、候補者本人だけでなく周囲の人のものも含まれている。今回の総裁選はとかく「発信力」が大きな意味を持つといわれているが、「発信力」と人々の心や耳に残る言葉を生む「言語センス」は、また違ったものであることを感じずにはいられない。

後に、今年の総裁選を振り返った時、どんなフレーズが思い返されるのだろうか。【中山知子】