アメリカンフットボール部をめぐる薬物事件で部員が逮捕されたことを受けて開かれた、8月8日の日本大学の記者会見。昨年11月の段階で部員が大麻使用を認めながら厳重注意にとどまり、大学上層部に最近まで知らされていなかったこと、この時、部員に厳重注意に至った背景として日大側が説明した「警察側の判断」を警視庁側が否定していること、大学側の調査で寮で植物片が発見されてから、警視庁への連絡まで「空白の12日間」があったことなど、140分近いやりとりで説明がなされたが、納得できない部分も多かった。部員の学生の逮捕に対する謝罪はあったが、そこに至る経緯や対応については、大学側の対応の正当性を訴える場面が多く、出席した3人がかばい合うような場面も少なくなかった。
個人的には、歯切れの悪さと本音が混在した、林真理子理事長の心の中のせめぎ合いも感じた。
林さんといえば人気作家で、エッセイスト。文化人としての顔も持ち、令和の新元号が決まった際の有識者懇談会のメンバーも務めた。高校生のころ、林さんのデビュー作「ルンルンを買っておうちに帰ろう」を読んだ。刺激的な内容も含めて、本音をここまでぶっちゃけることに、驚きとある種の新鮮さを感じたことを覚えている。現在に至るまで、林さんは率直に本音を口にできる人というイメージがあった。昨年、日大理事長就任が決まった時、そんな林さんと、マッチョな印象の大学の体質が混ざり合い、日大の従来のイメージも変わるかもしれないと感じた。だからこそ、今回の問題が起きた時の林さんの対応にも、関心が集まったのだとも思う。
今回の問題は、同大にとって悪質タックル問題などに次ぐ「有事」だ。その有事に際し、林さんが積極的にかかわった様子は、少なくとも記者会見からは感じられなかった。肝心な説明では、元検事の沢田康広副学長が説明する場面が多く、林さんが話そうとして沢田副学長が引き取る場面もあった。「お飾り」「隠蔽(いんぺい)」などの指摘には強く反論した林さんだが、持ち味の「本音」の部分は、あまり反映されていなかった。
大学経営には、理事長として関われる、関われない立場があるのは理解するが、今回は大学にとっての有事。時間は限られていても情報を精査し、有事が起きてしまった後の記者会見という最大の見せ場に向けて、もう少し動けることはあったのではないだろうか。記者会見での存在感は、鳴り物入りで理事長に就任したことを考えると、かなり希薄だった。林さんは大学運営に関して「私はもっと大きなところを見ているつもりだった」と述べたが、有事の後も、従来のやり方にとどまっていては、物事は進まないはず。会見でもどこか遠慮があり、「お飾り」といわれても仕方ない側面も感じた。
「本音」が全開となったのは、会見の最終盤だった。「どこに問題があったと思うか、自分の言葉で話してほしい」と問われ、「はっきり申し上げて(スポーツ部局に)遠慮があった」「しょせんは私は分からないという気持ちがあったと思っている。機構やシステムについてよく分からないので、口を挟んではいけないという気持ちがあったのは事実」などと話した。いいわけのようでもあったが、その言葉を聞いて、そのことが今回の問題をひもとく1つのキーワードなのだろうと、納得した。
「7万人(の学生)を預かっているが、誰か1人が何かを起こすことが、こういうふうに大きな問題になるということに気づくべきだった。足もとをすくわれたような気もした」と、マンモス大学の経営トップの責任の大きさに、いまさらながら気づいたのかと思うような言葉もあった。それでも、あの日の記者会見で「なるほど」と感じた林さんの言葉が出たのは、最終盤のわずかの時間。本音を口にできる、数少ないチャンスと思ったのかもしれないが。
日大では2018年に悪質タックル問題が起きた。スポーツ強豪校の同大では、スポーツ関連部局、特にアメフト部は「聖域」だと聞いたこともある。指導者や体制が変わればすべてがいい方向に変わるという保証はなかったわけで、頭の片隅には置いておく必要があった。本当にスポーツ部関連を現場に任せたままにしていたとするなら、「人ごと」だったといわれても仕方ない。「今後は、スポーツの方に改革の手を伸ばしていきたい」と、宣戦布告のような言葉もあった。それが実現された時が、初めて林さんの手腕が評価される時になるし、そうでなければ、呪文のように繰り返されている「学生ファースト」が本当に達成されることは、難しいのかもしれない。
ご本人は、7月の就任1年で、改革のイメージについて「6合目」と述べていた。今回の問題は、大学改革の途上で起きてしまったことになる。記者会見では6合目から「後ずさりした」としたが、6合目に戻るにもかなりの時間がかかるのだろう。記者会見で露呈した林さんの歯切れの悪さと本音の少なさに、この先の道のりの厳しさを感じたのは私だけではないはずだ。【中山知子】


