シルヴェスター・スタローン(76)が、積年の怒りを爆発させた。自分が考案・主演し、多くの利益をもたらしてきた『ロッキー』の所有権をまるで持っていないという不条理な事実について、プロデューサーのアーウィン・ウィンクラー氏(91)にあらためてモノ申したのだ。

シルヴェスター・スタローン
シルヴェスター・スタローン

先週、スタローンは、ナイフの形の舌を持つ蛇の形をしたウィンクラーの画像をインスタグラムに投稿。その下には、「アーウィンは47年も『ロッキー』と『クリード』をコントロールしてきた。私は、少しでもいいから、残った権利を取り戻したいのだ。あなたの子供たちだけに渡ってしまう前に。この91歳のジェントルマンがそうしてくれるのはフェアなことだと私は思うのだが?」とのメッセージが書かれていた。これは「自分の魂が蝕まれるほど」持ち出すのがつらい話題だが、自分はどうしてもわが子たちに『ロッキー』を残したいのだとも、スタローンは続けている。

この投稿は、その後、取り下げられた。心からのお願いをしておきながらなぜ削除したのかはわからないが、メッセージにも触れられているとおり、スタローンがこのことを持ち出したのは初めてではない。彼がウィンクラー氏に自分も権利が欲しいと初めて申し出たのは、『ロッキー3』が公開された後のこと。だが、その後続編が3本と、スピンオフの『クリード』が2本作られても、その願いはかなわないままで来ている。そうなったのは、まず、始まりのせい。さらに、その後の彼のキャリアも少し関係している。


『ロッキー』を機にどん底から這い上がった

スタローンが『ロッキー』の構想を思いついたのは、彼が無名俳優だった28歳の時。ホームレスを経験したり、家賃を払うためにポルノ映画に出たりするなど苦労を重ねてきた彼は、ある日、ムハマド・アリとチャック・ウェプナーの試合を見て感激。ここからフィラデルフィアの無名ボクサーの話を思いつき、わずか3日半で『ロッキー』の脚本を書き上げた。

それを持ってあちこちのスタジオに売り込みをかける中で、興味を持ってくれたのが、ウィンクラー氏とロバート・チャートフ氏だ。彼らはロバート・レッドフォードやバート・レイノルズ、ライアン・オニールなど人気スターの主演でこれを作ろうとしたが、スタローンは、自分が主役をやらせてもらえないなら権利を売らないと強く主張。最終的にウィンクラー氏らはスタローンの要求を呑み、『ロッキー』の権利はスタローンの手を離れた。

スタローンが『Variety』に語ったところによれば、この時、彼はスタジオから、脚本執筆料として2万5000ドル、出演料として1週間360ドルを受け取っている。資産価値4億ドルと推定される現在のスタローンにしてみれば微々たる金額だが、当時の彼にとっては非常に大きかった。その頃、スタローンは、家賃を払うために愛犬を売らなければいけないほどお金に困っていたのだ(『ロッキー』が決まったおかげで、スタローンは無事に愛犬を買い戻すことができた)。

無名俳優が主役ということで製作予算は100万ドルに削られ、撮影はわずか25日間で行われた。だが、その映画は、全世界で2億2500万ドルを売り上げる大ヒットとなったのである。批評家からも高く評価され、アカデミー賞も作品、監督、編集の3部門で受賞。スタローンも主演男優部門と脚本部門にノミネートされた。


続編では監督としても成功

ここまで成功したとあれば、続編が作られるのは自然なこと。続編では監督も務めたいというスタローンにスタジオは反対したが、ウィンクラー氏とチャートフ氏は前回と同じように彼の要求を聞き入れ、その願いはかなった。そしてスタローンは見事にも、1作目と同じだけの世界興収を上げるヒット映画を作ってみせたのである。その次の『ロッキー3』も、スタローンが監督。権利についての相談を弁護士に持ちかけたのは、この映画のヒットを見届けてからだ。

だが、弁護士の返事は、「それは無理」と、すげなかった。業界でバックエンドと呼ばれる、興行成績に応じて支払われるボーナスも与えられるスタローンは、すでに十分すぎるほどもうかっているというのが理由のひとつ。それに、プロデューサーらは、無名だったスタローンにチャンスをくれた人たちである。そもそも、1度獲得した権利を後になって別の人にも分けてあげるなどということはこの業界で絶対に起こらないとも、弁護士は言った。

それでも納得いかないスタローンは、ある日、プロデューサーらに「せるふを書いたのは僕。(ボクシングの)コレオグラフィー(演出)を作ったのも僕。僕はあなたたちに忠実でい続けてきた。宣伝活動もやった。監督もした。こんな僕に1%の権利もくれないなんて、心苦しくないんですか?」と面と向かって抗議する。だが、彼らの答えは「君はお金をもらっている」だった。

そうやって行き止まりの状態が続くうちに、スタローンと『ロッキー』の人気は衰退していく。『ロッキー5』は北米3位デビューと最初からつまずき、トータルの北米興収は『ロッキー4』の3分の1にとどまった。6作目となる『ロッキー・バルボア』は、作らせてもらうのにもひと苦労だった。そうなると、権利をくれなどと強気なことを言える立場にはない。

しかし、2015年、ライアン・クーグラー氏のアイデアで、アポロ・クリード(カール・ウェザース)の息子を主人公にした『クリード』に助演で出演すると、スタローンと『ロッキー』にあらためて脚光が当たることになる。今作で、スタローンは『ロッキー』1作目以来、初めてアカデミー賞にノミネートされた。『ロッキー』で始まった彼のジャーニーは、一周してまたここに戻ってきたのだ。


「負け試合」に勝利できるか

ロッキーは、スタローンにとってかけがえのないキャラクター。そんなロッキーのことを、スタローンは「兄弟のような存在」という。だが、その大事なキャラクターは、彼のものではなく、ウィンクラー氏のものだ。その後は、ウィンクラー氏の子供たちのものとなる。

ウィンクラー氏はもう91歳で、その日はそう遠くないかもしれない。だからこそスタローンはなおさら焦りを強めているのだろう。昔から言われたように、おそらくそれは起こらないことなのか。それとも、ウィンクラー氏が心変わりをしてくれる可能性はあるのか。負けるに決まっている試合に勝つロッキーの姿を描いてきたスタローンは、一縷(いちる)の希望を持ち続ける。

【猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト】