豊洲市場の移転問題を検証する都議会の調査特別委員会(百条委員会)で20日、石原慎太郎元都知事(84)の証人喚問が行われた。

 次に都民ファーストの会の音喜多駿都議が質疑に応じた。各会派は時間短縮のため、パネルを立てて資料を提示しつつ質疑した。

 -石原証人は、豊洲に移転しないのなら小池知事に不作為の責任があると批判しているが、地下水の9回目のモニタリング検査の結果、有害物質のベンゼンが最大で環境基準の100倍も検出された。石原都政の際に約束した、地上も地下も安全という安全基準を満たせていない。かつて石原証人自身が設定した基準が誤りだったと認めるのか?

 石原氏 誤りも誤りじゃないもなくてですね、現に地下水が湧いて、確かに非常に危険なものを含んでいるかも知れませんが、あれだけの建物をあれだけの公費をかけて作って、しかも築地が限界に来ている時に、何で地下水を別に地上で使うわけじゃないのに、ポンプアウトして海に捨ててね。東京の水道水は、ゴミ処理までして世界最高の水ですよ。水道が豊富にあるんだから、市場で使ったらいいじゃないですか?

 -なぜ捨てる地下水に、これだけの基準を設けた?

 石原氏 つまびらかには覚えていませんが、私にとって、あの時点で地下水は、それほど重要な案件じゃなかった気がする。むしろ問題は土壌汚染でありまして、あそこに建物を建ててみたら結局、地下水が漏水してきて地下にたまって、政争のプロパガンダに利用されて、みんなが非常に動揺したわけですよ。使う必要のない地下水は、そのままろ過してポンプアウトして捨てたらいいじゃないですか? 市場で使うわけじゃないんですから。何で豊洲を放置するんですか? しかも、膨大な補償費を払いですね…これは全部、都民の税金ですよ。不作為に値するんじゃないですか?

 -現知事の不作為を指摘するのであれば、地下水が重要じゃないと言うが、基準を設定したのは、かつての石原知事。まず、ご自身の過ちを認めなければいけないのではないか? 今、小池知事は、石原証人が設定したハードルを1つ1つ、確認するための作業をしている。それについて証人が意見を述べるのは時期尚早ではないか? 次に、昨日までの証人喚問の中で分かったことが幾つかある。11年の土壌汚染の瑕疵(かし)担保責任の放棄の背景には、01年に結ばれた「土壌汚染は全てきれいにする必要はない」といった内容の確認書が、大きな影響を及ぼしていたことが分かった。しかし、その過程で、土地売買の交渉責任者である浜渦元副知事は、重要な確認書の存在を知らずに交渉を進めていた。歴代の市場長が、誰も確認書の存在を知らなかった。しかし、交渉相手である東京ガスは確認書を知っていた。信じがたいガバナンスのもとで、深刻な土壌汚染の可能性があった市場用地の売買が行われていた。足元の都政が空洞状態だった認識はあったか?

 石原氏 存じませんが…担当者に一任しておりましたから。大事な問題ですけど、安全と安心の問題は、豊洲市場の、東京都だけの問題でない一種の文明論。一方に科学があり、一方に人間の心がある。この2つの要素の相克がある限り、この問題はなかなか終わらない。つまり、我々は決して全能であるわけじゃない。全能であれば安全も追求できましょうけども、我々は科学も含めて決して全能ではない。私たちは、そういうのを踏まえた上で、折り合いを考えて、せっかくお金を使って建設した市場を、生鮮食品流通のために都民のために活用すべきだと私は思いますけどね。

 -未来や文化、人間を語るのであれば、かつてご自身の下した決断については総括していただきたい。

 次に生活者ネットワークネットの小松久子都議が質疑に臨んだ。

 -市場は今、経済的な持続可能性を検証する中で、減価償却を含めた損益が年間100億円にのぼるという資産が都から出され、経営の面からも先の見通しからも先が危ういと言われる。市場は第一に食の安全が担保されなければならない。2004年に食品安全条例が制定された当時の知事が石原さん。市場における食の安全への意識は高かったと思いますが?

 石原氏 どういうことですか? 私が? その時に? 当たり前じゃないですか!! 私自身も東京の市場を回ったものを食べている人間ですから。

 -だから豊洲の土壌汚染対策には万全を期して、専門家会議を立ち上げ、法令で定められた以上の対策を実施しようとした。何とかしなければという強い思いを持っていた?

 石原氏 その通りですね。

 -しかし昨日までの証人喚問で、都知事の指示で浜渦元副知事が「土地の取得が第一義、汚染処理は二の次」という形で強引に事業を進め、東京ガスの汚染処理計画では汚染が残ることを知りながら、それで良しとした。その浜渦氏に全幅の信頼を置いていたということでよろしいか?

 石原氏 先ほど申しましたとおり、ピンチ寸前で債権団体に転落しかねなかった東京都の財政を再建するために、職員の歳費の削減することを、浜渦君が組合の委員長を説得して是としてくれた。おかげで東京都は債権団体に転落せずに済んだわけで、彼を信頼していた。

 -都政を丸投げしていた結果、土壌汚染対策で、とんでもない費用が必要になることを無視して細かいことは司に任せたとおっしゃった。しかし、組織のトップとして知るべきことを知らなかったのは、おかしいし怠慢。都知事時代、関心のあること以外は部下に任せきりだったのではないか

 石原氏 私は関心があったことには自分自身、コミットしてものをしましたよ。行政の責任者の当たり前の姿勢じゃないですか?

 -それ以外のことを部下に任せきりだったあなたの怠慢が都政のゆがみを生み、豊洲の混迷を招いたのではないか

 石原氏 私は別に怠慢だったと思っておりませんし、私が都庁に3、4日しか出てこないって、よくうわさがありましたけど、私はその代わり東京の中を歩きました。いろいろな問題を発見できました。例えばですね、SPを連れて渋谷の街を点検した時も、路上で時期が来たら禁止になる非常に危険なドラッグを打っている実態を把握して、すぐに警察に知らせて取り締まりさせた。あるいは、東京の大事な大事な大事な名所である隅田川も、能の舞台になっている伝説的な川ですよ。これが全然、観光として活用されていない。私は名建築家の安藤忠雄さんと、ずっと沿岸を歩いて、都の隅田川の沿岸を、もうちょっと観光地にしたいなぁと。例えば、ロンドンのテムズ川の川べりは、立派な観光地になっています。こういったものを自分自身の目で確かめて、歩いて、日にちを費やして点検して、政策に反映しようと思いました。ですから、私は決して怠慢だったとは思っておりません。

 小松都議からは、それ以上の質問、追及はなく、午後2時39分、石原氏の証人喚問は終了した。【村上幸将】