平成の将棋界でトップを走り続けた羽生善治竜王(48)が、無冠に転落した。

21日、山口県下関市「春帆楼」で行われた第31期竜王戦7番勝負第7局で、挑戦者の広瀬章人八段(31)に敗れた。この結果、対戦成績3勝4敗で防衛に失敗した。同時にタイトル獲得通算100期獲得はならず、27年ぶりの無冠となった。

羽生は、1989年(平元)12月の第2期竜王戦で初タイトルを獲得。翌年11月に防衛に失敗した後、91年3月に棋王を獲得するまでの4カ月間だけが無冠で、それ以降ずっとタイトルを1つは保持していた。

平成最後の竜王戦で、歴史が動いた。羽生が決心したかのように居ずまいを正して、投了を告げた。27年ぶりの無冠になった瞬間だ。

将棋界の「黄金世代」最後のとりでだった。羽生とほぼ同年代の佐藤康光九段、森内俊之九段、郷田真隆九段、丸山忠久九段、藤井猛九段ら、平成の将棋界のタイトルをほしいままにしてきた「チャイルドブランド」でただ1人、現役のタイトル保持者だった。

あこがれの存在であり、若手に目標とされる身であった。21世紀になって渡辺明以下、年下の棋士が台頭してきた。誰もがあこがれ、同時に「打倒羽生」を目指してきた。羽生の棋譜を研究するだけでない。人工知能(AI)機能を搭載した将棋ソフトも駆使し、最新の戦法を研究して対抗してきた。彼らの圧倒的な研究量、若さという体力差に対し、経験値で対抗した。昨年は王座を中村太地、王位を菅井竜也に、今年は豊島将之に棋聖も奪われた。名人戦の挑戦者にもなりながら、佐藤天彦名人に屈した。

かつては羽生たちの世代が、昭和の定跡を見直して新たな戦い方を築き、谷川浩司よりも年上のタイトル保持者を押しやった。時代は巡り、逆の立場になった。

新元号を目前にして、将棋界は転換期を迎えた。8大タイトル保持者のうち、40代は久保利明王将(43)だけとなった。他はすべて20~30代。ここに史上最年少プロの藤井聡太七段(17)も絡んできそうだ。

今年2月の朝日杯準決勝で藤井と戦い、敗れた羽生はこう話していた。「藤井さんは、いずれタイトル戦の挑戦者として出てくる。ただ、私がそこにいるかは分かりませんが。そこが問題です」。

このまま終わってしまうのか? 羽生が94年に初めて名人を獲得した時の対戦相手で、その前年に49歳の史上最年長名人となった故米長邦雄元日本将棋連盟会長は、「大切なのは負けた後」との名言を残している。

羽生も過去にはこれを実践し、はい上がってきた。95年3月、7冠全制覇に王手をかけながら敗れた。翌年2月に谷川から王将を奪取し、7冠全制覇を達成した。「永世7冠」も、08年の竜王戦で渡辺に3連勝しながら4連敗となり、1度は夢と消えた。昨年の竜王戦で渡辺を下し、通算7期獲得による「永世竜王」の称号を獲得した。同時に、7つのタイトルすべてで長年保持した棋士に与えられる「永世」称号を得た。「必ずもう1つ、タイトルを獲得してくれる。100冠を夢や幻で終わらせてほしくない」と、思っているファンは多い。