東日本大震災で被災した犬たちが、人に寄り添い、治療や心身のケアをするセラピードッグとして育成され、各地の病院や高齢者施設などで活躍している。国際セラピードッグ協会では、約2年半かけて、被災犬や捨てられた犬をセラピードッグに育成。そのうち、現役の被災犬は31頭いる。

先日、東京都中央区の高齢者施設で定例訪問会を行った。セラピードッグたちは一室で入居者と触れ合った後、1人1人の歩調に合わせてゆっくり歩いた。60代男性は「ワンちゃんとの歩行訓練で、つえなしで6周半まで歩けるようになった。こんなに距離が延びるとは。ワンちゃんがいるから、安心してギリギリまで歩ける」と笑顔を見せた。

この日は被災犬3頭が参加した。「きずな」(メス、推定9歳)は震災から半年後、ガリガリにやせた状態で放浪中、福島県二本松市内で保健所に保護された。原発事故による被ばくの可能性を恐れて引き取る人もなく、殺処分寸前になったが、協会に救出された。

音楽家で国際セラピードッグ協会代表の大木トオル氏(67)によると、被災犬に共通するのは人間への不信感。温厚な性格のきずなでも、何度も逃亡を図り、失禁したという。「津波を経験したのか、海を見ると今も震え上がります」。

震災後、きずなはセラピードッグとして、福島県内の仮設住宅や病院など被災地も訪問した。大木氏によると、高齢者女性から「おめぇたちも大変だったな」と福島弁で声を掛けられると、自分で歩み寄ったという。「普段はそんなことしないのに福島弁が懐かしいのか、うれしそうに尻尾を振っていた」と振り返る。

大木氏は「苦しんで痛みを知った犬たちだからこそ、人を助けられる」と、被災犬らのセラピードッグとしての特性を強調した。【近藤由美子】

◆セラピードッグ 医療や介護の現場で患者や高齢者に寄り添い、心身回復を補助する犬。一般的に、治療や心身のケアが目的の動物介在療法(AAT)と癒やしが目的の動物介在活動(AAA)があるが、国際セラピードッグ協会のセラピードッグ活動はAATにあたる。米国では60年以上の歴史があり、セラピードッグがリハビリに寄り添うことで、脳梗塞の後遺症や認知症改善、動かなかった手や足が動くようになるなど、治療の一環として成果を上げている。協会第1号のセラピードッグ・チロリがモデルになった映画「犬と歩けば チロリとタムラ」が04年に公開された。