将棋の羽生善治九段(48)が、通算勝利数1位タイとなった。23日、東京・千駄ケ谷「将棋会館」で行われた第60期王位戦挑戦者決定リーグ白組5回戦で、谷川浩司九段(57)を下した。

これでデビュー以来、公式戦1433勝とし、故大山康晴十五世名人の最多勝記録に並んだ。平成時代に幾度となく頂上対決を繰り広げた宿敵を倒し、大記録に追いついた。羽生は、30日の第32期竜王戦1組3位決定戦で木村一基九段(45)に勝てば、単独トップの1434勝となる。

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先に仕掛けた谷川流「光速の寄せ」をしのぎ、羽生が終盤の寄せ合いで抜け出した。過去166戦104勝、1996年(平8)の王将戦7番勝負でタイトルを奪って史上初の7冠全制覇を果たした時の相手を前に、1433勝目を挙げた。「若い頃は考えもしなかった。これからも重要な対局が続くが、励みにしたい」と喜びをかみしめた。

昨年12月、竜王を失って27年ぶりに無冠となった。今年に入り、最多勝利記録を目標にやっていこうと切り替えた。プロ入り後、コツコツと勝利を積み上げて33年5カ月あまり。太平洋戦争で出征もし、足掛け52年で達成した大山より公式戦の数が多い分、早くたどり着いた。今年3月にはNHK杯トーナメントを制し、一般棋戦で通算45回目の優勝を達成。こちらでは44回優勝の大山を、ひと足先に超えていた。

これで王位戦の挑戦者決定リーグ白組は4勝1敗とした。永瀬拓矢叡王が同星で並び、プレーオフが決まった。プレーオフを勝ち、紅組優勝者との決定戦を制せば、挑戦者になれる。8大タイトルの挑戦権獲得には最も近い。「若くて強い棋士がおり、競争は激しいが、タイトル戦の舞台に立てるよう頑張って行ければ」と張り切る。タイトル獲得通算100期まであと1期。当然、期待がかかる。

4月29日に都内のホテルで行われた平成時代を振り返る将棋イベントに出演した羽生は、令和時代を「カオス」と評した。将棋界の現在の8大タイトル保持者は最年長でも渡辺明棋王・王将の34歳。優勝争いに加わっている先行集団の1人として、刻々と変化する最新の将棋の奥深さに興味を持ちながら、ついていくしかない。

王位挑戦の前に、やることがある。次週の竜王戦で勝ち、最多記録のトップに躍り出ることだ。「気負わずいつも通り指せたらいい」。自然体で臨む。【赤塚辰浩】