静岡選挙区は、全国に4つある2人区で唯一、野党の“同士打ち”の構図となった。

立憲民主党は、徳川宗家19代目で政治経済評論家の徳川家広氏(54)を擁立。東京出身の徳川氏は、静岡と徳川家の5世紀の縁を強調し中部電力浜岡原発の廃炉を訴える。国民民主党は、4期目を目指す党参院幹事長の榛葉賀津也氏(52)が、徳川氏の知名度への警戒を強め、最も厳しい選挙と位置付け、全面対決の姿勢をあらわにした。

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自民党と旧民進党系の野党が1議席ずつ分け合ってきた静岡選挙区だったが、5月28日、徳川家康の末裔(まつえい)という抜群の知名度を持つ徳川氏が立候補を表明し激震が走った。静岡と徳川家の縁は深い。7歳で現在の静岡市に人質にとられた家康は、47歳で同市に駿府城を建て75歳で人生を全うした。他にも築城した浜松城、祭った久能山東照宮など、県内にはゆかりの地が多数ある。東京出身の徳川氏は「徳川と静岡の縁は5世紀に及ぶ。私の魂は全県に深く広く根を張る」と拳を握り訴える。

公約の最優先は浜岡原発の廃炉だ。「動いていないが核燃料が100トンほどあると聞いている。何か起きたら風評被害で漁業、農業は壊滅し生活も崩壊。静岡における生活防衛は経済より先に浜岡撤去。それが使命」。さらに「アベノミクスで大企業を優遇し格差が広がった」と安倍政権を批判した。一方で自らの立候補で野党同士打ちとなったことについては「同士打ちという気持ちは全くない。榛葉さんと一緒に自民党の票を減らして、県の不満を伝えられたら」と榛葉氏への対抗心は見せなかった。

対する榛葉氏は、6日に静岡市内で行った街頭演説で「赤コーナーに巨大与党の実力者と、ものすごい家柄で有名な2人のチャンピオンがいる」と徳川氏を強くけん制。「全国32の1人区で巨大与党にブレーキをかけようとしている中、静岡で野党が共闘していれば…おわびしたい。絶対に負けない」と宣言。「静岡で生まれ、育ち、学び、茶を飲み、知り抜いた人間じゃないとダメ」と徳川氏との全面対決を鮮明にした。

安倍政権に対する姿勢も違いがある。金融庁に端を発した「老後年金2000万円問題」を批判しつつ「党派を超えて事実を認め、安心して暮らせる年金制度を考えるのが正直な政治。自民党にもいい部分はある」と対話の必要性も強調。「反対のための反対はパフォーマンス。庶民の暮らしは良くならない。野党が正論を言い、提案する政治文化に変えたい」と訴える。

自民党現職の牧野京夫氏(60)が優勢の中、連合の支援は取り付けるが、徳川氏の高い知名度を警戒する陣営は「最も厳しい選挙戦」と表情を引き締める。その中、榛葉氏が12年コミッショナーを務めるリアルジャパンプロレスを率いる、初代タイガーマスクの佐山サトル氏が全面支援を約束。佐山氏は「米国で4年、イスラエルで3年学んだ本物の政治家。安倍政権よりいい外交ができる」と太鼓判を押した。殿様との“ガチンコ対決”に、強力な援軍が現れた。

静岡選挙区には共産党新人の鈴木千佳氏(48)、NHKから国民を守る党の新人の畑山浩一氏(49)も出馬している。【村上幸将】