従軍慰安婦問題がテーマの映画「主戦場」の一部の出演者が、上映差し止めなどを求めてミキ・デザキ監督と配給の東風を訴えた訴訟の、第2回口頭弁論が14日、東京地裁で行われた。

タレントのケント・ギルバートら原告は、デザキ監督が上智大大学院生として学術研究を目的にドキュメンタリーを取材したいと申し入れたので、取材を受けたにも関わらず、商業映画として上映された上、「歴史修正主義者」「歴史否定論者」などのレッテルを貼られたなどと主張。上映の差し止めと計1300万円の損害賠償を求めている。

この日の口頭弁論では、原告と被告、双方の対立が鮮明となった。原告の弁護士は、ギルバートがデザキ監督とかわした承諾書が日本語で書かれており、映画の販売(商業上映)のことなどが分からず署名したと主張。一方、被告の弁護士は、ギルバートがサインした承諾書は英語のものだとした上で、日本語が分からず署名したとした原告弁護士に対し、再確認を要求した。

また映画本編を証拠として提出する件について、被告側は映像の使用は裁判手続きの範囲のみで、裁判外の使用はしないことへの合意を求めた。原告側が映画本編を使って反論映画を作ることや、映画本編から1シーンを切り取る形で批判する可能性も視野に入れての要求だった。それに対し、原告の1人の藤木俊一氏は、同氏が代理人を務めるトニー・マラーノ氏の動画や画像を盗用されたとして、著作権侵害で10月4日に埼玉県駅熊谷署に対し刑事告訴したと説明。そのことを踏まえ、刑事手続きにおいての使用も禁止するのはありえないなどと訴えた。被告の弁護士は「証拠として提出しなければ、映画の全データ(本編)は原告の手元にはないもの。だから(今回の裁判外で使うのは)認めがたい」と主張した。

裁判官からは、法廷で議論しきれない細かい点が多々あることから、争点や証拠の整理を行う非公開の弁論準備手続きを行うことが提案された。原告の1人で「新しい歴史教科書をつくる会」副会長の藤岡信勝氏は「公開(の裁判)でやって欲しい」と主張したが、裁判官は「主張を整理して欲しい。弁論準備の方がいいでしょう」と言い、弁論準備手続きが12月26日に設定されたため、裁判は年明け以降にずれこむことが決定的となった。

「主戦場」は、川崎市で4日まで開催された「KAWASAKIしんゆり映画祭」での上映が決まっていたが、裁判係争中の作品であることから、共催の川崎市が主催のNPO法人KAWASAKIアーツに対し上映に対する懸念を示したことを受けて、10月27日に上映の見送りが発表された。その判断に対し、表現の自由の侵害ではないかと議論が起こり、報道各社も取り上げる大問題に発展。映画祭側は2日に中止を撤回し、最終日の4日に上映した。

デザキ監督は同日の舞台あいさつで「日本の表現の自由の大勝利」と上映を喜んだ。一方、藤岡氏が舞台あいさつ前にアポイントなしで会場に現れ「舞台あいさつをさせていただきたい。デザキさんがお話をされるということですから、私も出演者の1人だから、お話をさせていただこうと」と主張。映画祭関係者や弁護士らに止められ、引き下がたものの会場周辺は混乱した。

川崎市で4日まで開催された「KAWASAKIしんゆり映画祭」での上映後、初の裁判だったが、デザキ監督は欧州の主要大学で「主戦場」の上映ツアーを展開中のため、出廷しなかった。【村上幸将】