第92回選抜高校野球の中止が発表された11日、球場近くで50年以上にわたって球児らが通ってきた大力食堂の店主藤坂悦夫さん(81)は「ガクッとくる」と肩を落とし、妻初枝さん(78)も涙ぐんだ。一方で球場隣に位置し、高校球児たちが必勝祈願に訪れる甲子園素盞嗚神社(こうしえんすさのうじんじゃ)の宮司畑中秀敏さん(64)は「やめるべきだったと思う」と決定に理解を示した。

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甲子園から徒歩約5分に位置する大力食堂では、高校野球の時期に訪れる滋賀の常連客からの電話で、大会中止の一報を聞いた。悦夫さんは「今までこんなことない。ガクッとくる。高校生も必死に今まで頑張ってきて、どんなに悔しいか」と球児たちの気持ちを推し量った。

妻初枝さんは「テレビの発表があるまでは信じられません」と受け止められずにいた。66年から50年以上営んできた食堂は、名物のカツ丼が験担ぎとして球児たちに愛されてきた。毎年来る常連客もいるという。ニュース速報で会見を見ると「仕方がないことだとしても、なんかさみしいし、悲しい。(常連客とも)会えなくなる」と涙ぐんだ。

店内には高校球児やプロ野球阪神などの選手の色紙が所狭しと並んでいる。普段は穏やかな口調で迎える悦夫さんは「高校生にとっては一生の思い出やからな。学生は甲子園(を目指すこと)で勉強の方も上がってくる。ちゃんと出してやらんと」と決定に納得がいかない様子だった。

一方で、球場の隣に位置する甲子園素盞嗚神社の宮司畑中さんは「プロではなく教育の上でのスポーツ。子供たちを危険にさらしてまでする必要はないと思う。教育上の考えからはやめるべきだったと思う」と理解を示した。

同神社にはクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で集団感染が起こった2月ごろから開催を願う選手の保護者が祈願に訪れていたという。「私個人は選手だけでもやらせてあげたい。でも寂しいが、(選手の)将来を考えるとやめた方がいいのではないかな」と語った。【南谷竜則】