新型コロナウイルスの感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言から一夜明けた8日、大阪のシンボル・通天閣(大阪市浪速区)の運営会社「通天閣観光」の高井隆光社長(45)が、9日から通天閣を臨時休業すると発表した。

地元の繁華街・新世界の住民からの「閉めないで」という声を受け、時間を短縮して営業を続けてきたが、8日の入場者数が約30人に激減。周辺の串カツ店などの飲食店も休業し、通天閣から人影が消えた。

「地域の経済のためにも通天閣の灯を消すわけにはいかない。名指しで休業命令が出るまでは続ける」と話していた高井社長だったが、この日夕、「もう無理です」と涙を流しながら、休業を宣言した。

新型コロナウイルス感染拡大による観光客の減少で、通天閣の3月の入場者数は前年同月比の6割減。例年なら花見などが重なるこの春シーズンは、3000人を下回ったことはなかったが、緊急事態宣言から一夜明けた8日は、ついに約30人まで激減した。

これまで感染防止のために、客の体温を検知する機器を導入し、時間を短縮して営業を続けてきた。高井社長は展望台に鎮座する幸運の神様・ビリケンさんに「地域のためにもなんとか…」と毎日、お祈りしてきた。

通天閣の地下の土産物売り場では、同社の取引相手を支援する土産物の割引セールを開催してきた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた観光施設休館のあおりで、関西各地で売れ残ったり、返品されたお土産物の在庫を抱えた卸売業者から引き受け、半額以下で販売した。同社にとってはほば利益なしの“支援セール”だった。

9日からは臨時休業するが、通天閣の夜間のライトアップと支援セールは続ける。高井社長は「休業の間も通天閣の灯は消えることはない。いつかきっと…」と唇をかみしめた。【松浦隆司】