将棋の最年少プロ、藤井聡太七段(17)が大逆転で連勝した。初防衛を目指す木村一基王位(47)に先勝した、第61期王位戦7番勝負第2局が14日、札幌市「ホテルエミシア札幌」で行われ、13日からの2日制での対局は午後7時40分、劣勢の後手藤井が、自玉の詰みをかわして粘った末に反撃し、144手でひっくり返した。16日に控えた、渡辺明棋聖(36)との棋聖戦5番勝負第4局での最年少タイトル獲得へ、大きく弾みを付けた。なお、王位戦の第3局は8月4、5日、神戸市で行われる。

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苦しい対局で、藤井が大きな2勝目をもぎ取った。初日から1手のミスも許されない、スローペースの相掛かりに持ち込まれた。2日目となったこの日の夕方は、明らかに劣勢だった。各8時間の持ち時間もどんどん削られる。「収拾がつかなくなって、苦しくしてしまった」。午後5時の段階で、木村が1時間16分もあったのに対し、藤井は20分しかなかった。

前局、棋聖戦5番勝負第3局の渡辺戦で敗れた時と同様、先に時間を使わされる。必死の防戦から最善を尽くし、逆転への糸口を探り出した。木村が寄せ損ねたのも味方した。「最後まで分からなかった。開き直って踏み込んだ」。形勢は覆り、30歳年長の王位が、投了を告げていた。

初日の封じ手場面、先輩棋士に「一日の長」を見せつけられた。初めて体験した封じ手。用紙の入った封筒の署名を忘れ、木村に指摘を受けた。立会人の深浦康市九段(48)からは封筒を差し出す向きも指導された。初の2日制7番勝負で、初々しさを見せたのは、この場面だけだった。

開幕局、ペース配分という課題も感じた。「初めてで分からないところが、経験できて分かった」と話していた。土壇場で集中力を発揮した。

19年度まで、史上初の3期連続「勝率8割超え」を誇る。収録日と放送日の異なるテレビ棋戦を除けば、連敗は17年8月棋王戦の豊島将之八段戦と9月加古川青流戦の井出隼平四段戦、18年9月棋王戦の菅井竜也王位戦と王位戦予選の山崎隆之八段戦(肩書、段位は当時)しかない。勝負強さを、粘りが身上の「将棋の強いおじさん」に見せつけた。

15日には札幌から大阪へと移動し、16日の棋聖戦第4局に備える。「どの対局もいいコンディションで迎えられるようにしたい」と、抱負を口にした。

四段デビュー時、扇子には「大志」と揮毫(きごう)した。明治時代、札幌農学校に招かれたクラーク博士が発した「少年よ、大志を抱け」の名言の一部だ。七段扇子には、「飛翔」と書いている。北の大地からタイトル獲得という大志を抱いて勇躍、飛翔する。【赤塚辰浩】