抗寄生虫薬イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症の予防や治療に効果があると示す情報がSNSなどを通じて拡散され、家畜向けの薬を服用して入院する人が増えており、「あなたは馬でないし、牛でもない」と米食品医薬品局(FDA)が注意喚起している。イベルメクチンは人にも使われることはあるが、抗ウイルス薬ではなく、FDAも米疾病予防管理センター(CDC)も新型コロナの治療薬としては承認はしていない。人が使うには医師が処方した場合のみ可能で、指示に従って服用する必要があると警告している。

イベルメクチンを巡っては、一部メディアや議員らが副作用もなく安全でコロナに対して効果が認められると発言したなどを受け、「特効薬」として処方を希望する人が急増していた。毒物対策センターには、家畜や動物用向けに販売されているイベルメクチンを服用した人からの相談が増えており、過剰摂取で入院する患者も出ているという。牛用の注射向けイベルメクチンを飲んだ後、幻覚や錯乱、震えなどを訴え病院に運ばれた患者もいた。大型動物用の医薬品は濃度が高く、人間にとっては量が多すぎるため、毒性が強い場合もあり、発疹や嘔吐(おうと)、腹痛などの副作用の他、重い肝炎や昏睡(こんすい)状態に陥る可能性もあると警告している。

世界保健機関(WHO)は3月、科学的な治療の効果が不確実だとしてイベルメクチンを治療薬として推奨しないと発表。CDCも同様に臨床試験では治療効果を裏付ける十分な証拠は認められず、さらなる臨床試験が必要だとの見解を示している。一方で処方箋なしで購入できるオンラインを利用する人は後を絶たず、用量が不明なイベルメクチンを5日間にわたって1日5錠服用して入院した患者もいたとCNNは伝えている。(ロサンゼルス=千歳香奈子)