東京・池袋の都道で19年に乗用車が暴走し、松永真菜さん(当時31)と長女莉子ちゃん(同3)が死亡した事故で東京地裁は2日、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)罪に問われた旧通産省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(90)に禁錮5年(求刑禁錮7年)の実刑判決を言い渡した。下津健司裁判長は、アクセルとブレーキの踏み間違えを認定した上で、判決に納得するなら過失を認め、遺族に謝罪するよう説諭し同被告がうなずく一幕もあった。

裁判長は判決を読み上げた後、飯塚被告に呼び掛けた。

「裁判に納得がいったなら罪を認めた上で遺族、被害者に謝って下さい。もし納得いかないのなら2週間、控訴の権利があります」

起訴状によると、飯塚被告は19年4月19日に都道を走行中、車線変更の際にブレーキと間違えてアクセルを踏み続け、時速60キロから96キロまで加速して交差点に進入したとされる。検察側はアクセル、ブレーキともに故障の記録がないと指摘。被告側は運転していたトヨタ「プリウス」の電気系統などの経年劣化が事故原因で「アクセルを踏んでもいないのにエンジンが異常に高速回転し加速した」などと無罪主張を続けていた。

裁判長は判決で、事故原因は約10秒間にわたりブレーキと間違え、アクセルを踏み続けた過失だと認定した。

被害者参加制度で裁判に参加した遺族の松永拓也さん(35)は「裁判長がおっしゃったことを被告も受け止めて欲しい。判決を受け、もう1度、自身に問いかけて欲しい」と訴えた。裁判長の「尊い命が奪われて、2人(松永さん母子)が感じた恐怖心は想像しがたい。残された遺族、被害者の苦悩は察するに余りある」との言葉と、判決が出た時には涙が出たという。

判決について「2人の命が戻ってくるなら、どんなに良いことかと思うと、むなしさが出てきた」と語る一方、「少しでも前を向き、生きていくための大きな1日、判決になったと思います」とも語った。

「あくまで権利ですから被告が決めること。心情的には裁判を続けたくない。人と争い続ける私は、2人(妻子)が愛した私ではないから」と、飯塚被告の控訴は望まないことを重ねて強調。高橋正人弁護士は「飯塚さんの良心に期待したい。裁判官が『納得するなら謝罪を』と言った時はうなずき『控訴する権利がある』と言った時は無反応だった」と語った。

松永さんはこの日夕方、事故現場近くの慰霊碑を訪れ、手を合わせた。【村上幸将】

◆池袋暴走事故 19年4月19日午後0時25分ごろ、東京都豊島区東池袋4丁目の都道で、乗用車が交差点2つを含む約150メートルにわたって暴走。赤信号を無視し横断歩道に突っ込んだ。自転車に乗っていた松永さん母子が死亡し、運転していた飯塚被告と助手席の妻を含む、2歳から90代の男女9人が重軽傷を負った。