「何で、出たのかなぁ?」。北海道・知床半島沖での観光船の事故で、現場に向かう巡視艇の船首が逆巻く波に押し上げられては海面にたたきつけられるテレビ画像を見て思った。

ある関東の遊漁船の船長は、「地元の漁師さんは、海が荒れると予測して早めに漁場から引き揚げたそうじゃないですか。それなら私らも出しません」と話した。

釣り記者を始めて3年目の1993年11月、東京湾で船頭の経験とカンに助けられたことがある。その日は朝から快晴無風、ベタナギでアジが入れ食いだった。10時すぎ、突然言われた。

「幹事さん、帰ろう。伊豆大島で南から12メートルの突風が吹いた。あと30分もすれば、ここも吹いてくる」。すぐに帰港した。1時間後、海は一変、風と波で大荒れに。あの中で釣っていたらと思うと、ゾッとする。

当時から漁業従事者は、午後7時のNHKニュースの前に流れる「気象情報」で、必ず翌日の天気をチェックしている。これを見て、「明日は来なくていい」と電話をくれる人もいた。

今は情報伝達手段がはるかに進み、もっと早く簡単に出船の可否が判断できるはず。安全第一、人の命をお預かりする仕事で、経験が浅いのなら、誰かの意見に聞く耳を持つことができなかっただろうか。【赤塚辰浩】