北海道・知床半島沖で沈没した観光船「KAZU 1(カズワン)=19トン」の事故は、今も不明者の捜索が続いている。この事故によって、海上での緊急時における救命具の課題点が見えてきた。
カズワンのような沿岸区域を航行する小型船舶(20トン未満)の場合、最大搭載人数分の救命胴衣(オレンジ色のチョッキタイプ)などのほか、膨張式の救命いかだ、もしくは救命浮器の装備が小型船舶安全規則で義務付けられている。カズワンには、いかだはなく、浮器が装備されていた。
カズワンの航行域である知床半島沿岸は夏季でも海水温が20度に達しない冷水帯海域でもある。水難学会副会長の安倍淳さんは「事故当時の知床の海水温が5度前後。救命胴衣や浮器では海上で漂うことはできても生命を維持できる保証はない」と断言する。
そこで注目されているのは「救命いかだ」だ。緊急時に海面に投下し、簡単な操作で膨張する仕組み。テントやドーム状で、波や風を受けても転覆しにくい構造だ。3年前、北海道襟裳岬沖の漁船転覆事故では、救命いかだに乗っていた6人が無事救助された。しかし、6~8人乗りで50万円以上の物もあるなど高価で、設置のハードルは高い。
そこで、安倍さんが推奨するのは、全身を覆い包む「イマーションスーツ」だ。水温0度の海において6時間の体温保持が可能。さらに浮力があるため、海上に浮遊し救助を待てる。安倍さんは、2011年の東日本大震災で津波に遭って、宮城・東松山町の自宅の床板ごと流されたがイマーションスーツを装着していたことで助かった。しかし、「確かに体温を維持できるが、1着8万~10万円では値段が高すぎる」として「命を守ることをどう考えるか。私はイマーションスーツがあったから今も生きている。課題は装着までに2分は要する。体が浮くことと体温保持の機能を下げずに安く商品化できる研究をしてほしい。資金面では補助金制度も使えるようにして、海に関連する仕事に従事するみなさんの命を守れる法整備が必要だと思います」と訴えた。

