サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会1次リーグで、ドイツ、スペインを撃破した予想外の展開もあり、テレビ局は情報番組も含めて日本代表の露出を増やし続けている。

フジテレビが2日早朝に放送したスペイン戦は午前4時台ながら、平均世帯視聴率は16.9%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)をマーク。テレビ朝日が27日に放送したコスタリカ戦は世帯視聴率が42.9%と今年最高を記録した。個人全体視聴率も30.6%、1分以上見た人数を算出する到達人数も6082万人となった。同じく、コスタリカ戦を生中継したABEMAは同日の視聴者数が1400万人を超えたと発表。日本の人口を勘案すると、日本中がW杯に盛りあがっているように映る。だが、これも無料放送があってのことだが、今後の雲行きは怪しい。

カタールW杯の放送権を購入したのはNHK、フジテレビ、テレビ朝日の3局のみ。14年ブラジルW杯まではNHKと民放が共同で放送権を購入も、18年のロシアW杯ではテレビ東京が降り、今回は日本テレビとTBSも追随した。理由は放送権の高騰だ。民放連は10年南アフリカ大会からW杯は赤字と、公表している。放送関係者は「予選リーグの日本戦は3試合。NHKが初戦をとると、民放4社で2戦を取り合うことになる。外したリスクを考慮すれば、とても出せる金額ではない」と指摘する。人気スポーツのテレビでの無料放送のハードルは高い。

日本代表が初出場した98年フランス大会はNHKが全64試合を独占放送した。この時は、FIFAが各地域にサッカーを普及させたい思惑もあり、放送権をABU(アジア放送連合)に格安で販売。NHKは約6億円で購入したとされる。その後はうなぎ上り。02年は日韓での開催となり、時差もないことから放送権は185億円(推定、以下同)に。06年140億円、10年170億円、14年240億円と高騰しつづけ、今年のカタール大会は350億円ともいわれている。ただ、これでもすべてをまかなえず、日本の放送権を独占販売してきた電通は02年からは3大会は衛星放送のスカパー、今回はABEMAに販売するなどし、回収を図る。本大会ではないが、アジア最終予選はDAZNが放送権を購入、地上波放送がなかったことも記憶に新しい。

さらに、ニュースでW杯を扱うにも使用料が発生する。日本テレビとTBSは映像を使うために1.5億円を支払ったとされ、購入しなかったテレビ東京は静止画像しか使えない。同局の石川一郎社長は定例会見で「我々は商業的メディアであり、採算、経済合理性も考えなければいけない。他の番組を痛めてまでスポーツを放送するためにお金や人材も含めて回す必要があるのかどうかという総合的な判断です」と語った

民放キー局幹部は「五輪もW杯も4年に1度のお祭り。日本では盛りあがるので無理してやってきたが、ほかの番組で吸収するのも限界」と口をそろえる。その裏には、広告市場のネットシフトもある。19年にはネット広告費が2兆円を超え、1.9兆円のテレビを初めて超えた。今後もこの差は開くとみられ、前述のDAZNやABEMAのほか、ネットフリックスやアマゾンプライムビデオなど、ネット配信事業との争いも激化している。放送権が高騰するスポーツ中継は、無料放送のビジネスモデルにあわなくなっているようだ。

スポーツ団体にとっても、有料放送は金のなる木でもある。格闘技は有料が当たり前だし、放送局が放送権を担っていた女子ゴルフは、今年から協会が放送権を一括管理するようになった。誰もが、高く売りたいと思うのは当然で、今回のW杯の賞金総額は史上最高の4億4000万ドル(約616億円)にまでなった。

その一方、無料放送がなくなり、有料視聴者ばかりになると、当該スポーツの普及や人気拡大の妨げになるとの見方もある。欧州ではFIFAと欧州放送連合(EBU)との間、自国チームの出場試合と準決勝以上は無料放送するという契約があるという。今後は、世論を見据えながら、さまざまな交渉が必要となりそうだ。