東京から電車に揺られて1時間半。決して都心から近い場所ではない。それでも侍ジャパンの激闘の余韻を求めて、埼玉・東松山市にWBCロスのファンが集まってくる。

手彫り印鑑「中原印房」ではヌートバーの印鑑をつくった。商品ではない。選手と同じ名字の印鑑は取り置きを使い、ないものは改めて彫った。「大勢」「周東」、ダルビッシュは「有」とした。

「印鑑をさ、置いただけ。商売とかじゃない。応援するみなさんの気持ちをいただいた」と中原和弥店主(56)は話す。最初は白い紙に赤い線でボールを印刷して、その丸い線の中に気になる選手の印鑑に朱肉をつけて自由に押してもらうようにした。

すると「村上、打ってくれー」「佐々木たのむぞー」と必死に願掛けをしながら、曲がったりかすれないように丁寧に押印してくれた。次第に願掛けする回数が増えて、赤い大きな玉がぼわっ、と膨れるようになり、日の丸みたいになった。「印鑑はちゃんと押そうとすると神経を使う。だって、大切な契約だったり、大きなお金を借りたりするときに印を押すのは真剣でしょ。それと同じ」とボソリとつぶやいた。

ヌートバーの印鑑は妻明子さん(56)が心を込めて彫った。中原さん夫婦は同級生、ヌートバーの母久美子さんは違う学校だったが1学年上になる。「ウチの子どもはソフトボールをやっていて、試合とかハラハラドキドキしながら応援していた。その気持ちがよみがえってきてね。印鑑を彫っているときに『けがしないように』『元気でプレーして』と念じながら、ね」と明子さんは彫っているときを思い出して瞳を潤ませた。

用意した印鑑は、負傷離脱した鈴木、栗林も入れて32本。中原さんは「バタバタしていて栗山監督の印鑑を忘れてしまった。でも、みなさん、気持ちを込めて押してくれた。ありがたい」と話して「東松山はなんか盛り上がってますよ」とつぶやいた。26日は店は休み。27日、店頭に32本の印鑑を残しておくか迷っている。【寺沢卓】