大逃げを打ったパンサラッサの1000メートル通過は57秒4。あのサイレンススズカ(98年)と同じ通過タイムでした。普通の馬は行けといってもこのペースでは逃げられません。すばらしい能力です。まして、バタッと止まることなく、1分57秒6でゴール。普通なら逃げ切っている時計です。

実際、直線の残り400メートルの時点で、後続は届かないなと私は思いました。ところが、です。飛んできたのは3歳馬イクイノックス。鼻差や頭差のギリギリではなく、1馬身差、抜けきって勝利しました。パンサラッサのすごい能力が、イクイノックスの強さをより際立たせた、実におもしろいレースでした。

イクイノックスは昨秋の東スポ杯2歳Sで、上がり32秒9という脚を使っています。2歳時からそれだけの脚があることを示していました。今回は32秒7。パンサラッサが36秒8で、その差が4秒1ですから、残り600メートルの時点で20馬身以上の差があったことになります。よく届いたな…と驚きしかありません。春の2冠はともに大外枠という不運に泣いて連続2着でしたが、夏を越して、古馬を相手に、実力でG1タイトルをつかみとりました。

ルメール騎手はレース後のインタビューで、直線に向いてからパンサラッサの位置を見たと話していました。彼ほどの名手ですから、ちらっとは確認していたと思いますが、相手がどうであれ、直線の長い東京コースでイクイノックスの脚があれば、どんな展開でも届くという自信もあったのだと思います。本当に慌てない。大レースに強いジョッキーだと思います。

3着のダノンベルーガも今の3歳世代では力上位の1頭です。勝ち馬に次ぐ上がり32秒8は見事でした。ただ、本当に強くなるのは古馬になってからかなという印象です。4着ジャックドールは、パンサラッサの大逃げを自分で追いかけるわけにもいかず、難しい競馬になりました。力は確かですし、いつかG1に手が届く馬だと思います。(JRA元調教師)

天皇賞・秋を制したイクイノックスのルメール騎手はガッツポーズする(撮影・柴田隆二)
天皇賞・秋を制したイクイノックスのルメール騎手はガッツポーズする(撮影・柴田隆二)