ダービーのちょっと前のことです。松山康久先生と食事をしました。「木南君はいくつになるんだっけ?」。そう聞かれて、「42歳です。夏に43になります」「何年生まれになるのかな…」「昭和55年(1980年)です。松坂世…」。そこまで言いかけると、「おお、昭和55年生まれか。ということは、ミスターシービー世代だな」。先生はニヤッと笑いました。「そうですよ、自分、ミスターシービー世代です」。自分も笑顔で返しました。

あのとき、あの馬が勝ったときに自分は何をしていたのか。あの名勝負を見たとき、自分はどんな場所でどんなことを考えていたのか。誰と一緒にいたのか。競馬を見ていくことで、自分の物語を思い出すことがあります。

野球ばかりやってきたので、やはり同世代の松坂大輔投手というのは偉大な存在で、「松坂世代」という言葉がありました(芸能人なら広末涼子さん)。あるとき、「自分と同世代のダービー馬はどの馬なんだろう?」。ふと思って、調べたことがありました。1980年生まれ、つまり、1983年にダービーを勝った馬…、3冠馬ミスターシービーでした。中央競馬担当の記者になり、わずかな時間でしたが、ミスターシービーを育て、管理した松山康久調教師を取材できたのは幸運でした。

83年のミスターシービーだけでなく、89年には茨城県産馬ウィナーズサークル(唯一の芦毛のダービー馬)でダービー制覇を果たした松山先生。「ダービーが終わったら、またダービーが始まる」「あの馬でダービーを勝てなかったかなあと思い出す馬たちもいますよ」「ダービーを目指す権利は誰にだってあるんだよ」。日本ダービーだけでなく、ケンタッキーダービーの話、先生の米国修業時代の話…、さまざまな話題、そして、ダービーへの熱い情熱を聞かせてもらいながら、おいしい豚カツをいただきました。

全然、函館便りではないですが、こんなことを書いたのは、2歳馬の取材をしていて、あらためて思ったのです。今年の2歳馬が生まれのは2年前、「2021年に生まれた馬たち」だよなあ。その前年、3年前の「2020年に交配された馬たち」だよなあ。未知なる新型コロナウイルスの危機が迫り、先の見えない時期に、生産者の皆さんの夢を背負って、種牡馬と繁殖牝馬が交配され、2021年に生まれてきた馬たちです。

金曜昼から函館競馬場周辺は雨が降り始めました。土曜の芝はタフなコンディション、ダートは脚抜きのいい馬場になりそうです。土曜5R、6Rはいずれも2歳新馬戦。どの馬にもどの血統にも生産者、その血を導入してきた先人たちの努力が詰まっています。しっかりと各馬の走りを見届けたいな、と思います。【木南友輔】