金曜早朝、目が覚めると、携帯電話にメッセージが届いていました。世界を忙しく飛び回る日本の生産者、親しくさせていただいている方からのメッセージでした。

「またひとつの名門の灯が…」。

添付されていたのは、サラブレッドデイリーニュース欧州(電子版)の記事のリンク。記事は、アルファセントーリなどニアルコスファミリーが所有する繁殖牝馬たちが11月に行われるゴフス社(アイルランド)のセール(ノベンバーブリーディングストックセール)に上場されるというものです。

「リストラクティング」と記事では表現されていました。再構築という意味ですが、大量の繁殖牝馬を整理、売却し、規模を縮小するということだと思います。上場されるのはアルファセントーリ(18年にG1・4連勝。JRAで馬券発売されたジャックルマロワ賞を1番人気で圧勝)、タペストリー、アルビグナなどG1馬を含む44頭。

ニアルコスファミリーといえば、名種牡馬となったヌレイエフ、G1・10勝の名牝ミエスク(キングマンボの母)、近年では凱旋門賞馬バゴ、ディープインパクト産駒の仏ダービー馬スタディオブマンなど多くの名馬を所有。紺と灰色の勝負服は多くの競馬ファンが知っていると思います。

以前、生産者の方から教えていただいたのは、ニアルコスファミリーと日本競馬との結び付きであり、日本に多くの繁殖牝馬を送ってきた実績、日本産馬で欧米のレース勝った実績です。

90年代後半からさまざまな日本馬が海外のG1を勝つ時代になってきましたが、“日本産馬”として、最初に欧州のG1を制したのは、ニアルコスファミリーが所有し、アイルランドのタタソールズゴールドカップを勝った牝馬シーヴァ(父ヘクタープロテクター)でした。持ち込み馬として日本で生まれた日本産馬カラコンティ(父バーンスタイン)は14年に仏2000ギニー、そして、米国のBCマイルを制しました。日本で活躍した馬の血統ではありません。ただ、「日本の牧場でこの世に生まれてきた馬たちが欧米のG1馬になる」、その先駆けとなりました。

矢作厩舎のラヴズオンリーユーが21年にBCフィリー&メアターフで日本調教馬のBC開催初勝利という歴史的快挙を成し遂げたとき、ニアルコスファミリーの関係者からメッセージが届いたそうです。「日本馬のブリーダーズカップ勝利、本当におめでとう。ミエスクの血だったことがうれしいです」と…(ラヴズオンリーユーの3代母がミエスク)。

今後、大馬主「ニアルコスファミリー」の競馬へのかかわりは縮小していくことになると思いますが、世界中に、そして、日本にやってきた種牡馬たちが残した血統、良血の繁殖牝馬たちの血がこの先どのように繁栄していくのか、注目していきたいと思います。

先週はキーンランドのセール、来週は日本のスルーセブンシーズが挑む凱旋門賞があって、凱旋門賞が終わると、英国のタタソールズのセールです。表には出てきませんが、日本の生産者たちは常に世界にアンテナをめぐらし、日々、世界と戦って、日本の馬を強くしようと努力しています。

パソコンの文字を打っていると、どんどん時間がなくなっていく、忙しい金曜日。オールカマーや神戸新聞杯の出走馬の血統を見ていると、ヌレイエフ、ミエスクやマキャベリアン…、ちょっと「センチメンタル」(メッセージをくれた方、いわく)な週末です。【木南友輔】