「先週の香港でのできごとが…」

メモをとるペンが一瞬だけ止まった。

天皇賞・春の勝ち馬ヘデントール(牡4)を管理する木村哲也調教師(52)が、レース後の会見で自らリバティアイランドの悲劇について切り出したからだ。

「私にとっても非常に苦しいできごと。当事者のみなさんのことを思うと、複雑な気持ちを引きずってはいます。それでも仕事に立ち向かっていかなければならない状況ではありました」

自身はかつて世界最強馬イクイノックスを手がけ、スタッフとともに重圧と闘う日々を送ってきた。「うまくまとめられなかったです」としながらも、同じホースマンとして、痛いほどに分かる心境を口にしたのだろう。

ヘデントールの母コルコバードも木村厩舎で育った。会見では、ゆかりの血統への思いも語っていた。血をつなげていくのは競馬界の使命でもある。

「しっかり走ってくれて、自分の力でG1を獲得したので、無事に帰ってくれることをまず願います」

今週からJRAの各競馬場では献花台が設けられ、初日の3日には全国で1万人以上のファンが記帳した。無事の難しさと尊さ。競馬界に携わる者として、それをあらためて感じる週末だった。【太田尚樹】