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18代蔵元の小林大祐さん
仕込み蔵のあった地を見つめる小林さん
消失前の酒蔵。江戸時代から、街道沿いの交流拠点としての役割も果たしてきた
新しい酒蔵は2018年2月完成予定、3月から酒造りを再開する

 蒸し米に布をかけ、後ろ髪を引かれる思いで避難した。戻ったときにはすべてが焼失していた。しかし小林さんは、翌日には「もう1度ここで酒を造る」と決断。「直すという選択肢はなく、やるかやらないかの二択だったから決断できたのかもしれません」。現在は煙突やがれきは撤去され、基礎だけが残る。「更地にし、そこからどうなるか。来季までの再建はまだ夢です」。急に酒造りができなくなった蔵人のために、富山県の銀盤酒造でタンク1本の酒を仕込ませてもらった。四合ビン約3000本。4月には酒が出来る。

 小林さんは将来的には蔵元に、杜氏である父の後継として「別業界で働いていた弟を今年の1月から蔵へ招くことになっていました。火災発生は引っ越し直後でした」。弟さんは現在岩手の酒蔵で修業しているが、密に連絡を取り合い、今後について相談している。「弟がいてくれてよかった」と小林さん。

 まだ現状を受け止め切れないが、この状況になったから思うこともある。「加賀の井のアイデンティティーとは何か。何もなくなった今、本質としっかり向き合わなければ」。新潟県内では珍しい硬水を仕込み水に使う加賀の井の酒は「ボディーがあり、きれいな余韻が残る」味わいだ。この味の復活は不確定だが、江戸時代に加賀藩の本陣が置かれ、人の交流の場としてこの地に影響を与えてきた歴史は変わらない。「過去とこれからの融合を、酒の味を超えて追究していくチャンスでもあります」。

 本日と明日は新潟市の朱鷺メッセで「にいがた酒の陣」が開催される。「酒がないのにブースを出していいのか迷いました。でも酒の陣でしか会えないお客様に、直接元気な姿をお見せできればと、参加を決めました」。オリジナルのTシャツやトートバッグなどを販売する。加賀の井の酒を愛する人たちとの交流が、次への1歩となる。【高橋真理子】

[2017年3月11日付 日刊スポーツ新潟版掲載]