諸橋酒造/長岡市
杜氏の田中政之さんはよしかわ高醸造科卒。新潟清酒学校2期生でもある

 「普通酒がよくなければダメ。お客様に親しまれる本物を、手を抜かずにしっかり造っていくこと」。旧栃尾市に江戸時代に創業した諸橋酒造が大切にしている思いだ。今回の1本「越乃景虎 超辛口」も普通酒。甘辛度プラス12という、その名のごとく超辛い酒だが、「その辛さを感じさせない口当たり、飲みやすさがあります。仕込み水が関係しているのでは」と、この蔵の杜氏となって3年目の田中政之さん。仕込み水である敷地内の横井戸の水は、数値的にも超軟水だ。この水と米、技のバランスが〝上品な口当たりの辛口〟を生み出す。

 蔵が変われば目指す酒も変わる。最初は戸惑ったという田中杜氏は、蔵人たちと話をし、積極的に情報を得ることで「景虎の味」を体得してきた。上越市柿崎出身の田中杜氏の父は栃木へ酒造りに出ていた。「子どもの頃から父親は冬はいないもの。みやげは酒かすですし(笑い)、寂しかったですね。でも父がやっている酒造りには興味がありました」と振り返るとともに、今は父親の時代とは違うと断言する。「会社の酒を造るのが自分たちの仕事。酒の味が変わったとは言われたくないですね」。

 さらにこの蔵で果たしたい目標がある。全国新酒鑑評会で金賞を取ることだ。2年間で関東信越国税局と越後流酒造技術選手権大会で入賞したが、全国の金賞には、まだ手が届かない。諸橋酒造の前杜氏、高橋孝一さんは現代の名工であり黄綬褒章も受章した名杜氏だった。それだけに金賞への思いは強く、その思いが蔵全体の技術と気持ちの向上につながっている。

 昨年就任した諸橋麻貴社長は「父の代までに築き上げてきた蔵の味を崩さずに守っていくだけです」と語る。謙虚な言葉の根底には蔵人への厚い信頼がある。この土地に与えられた天の恵みを大切に、経営者と蔵人が支え合い、変わらぬ味を世に送り出していく。【高橋真理子】

[2017年2月11日付 日刊スポーツ新潟版掲載]