首位ロッテの中で捕手加藤匠馬の必死な姿勢が光る。勝てばマジック点灯だった29日のオリックス戦は大敗した。スタメン捕手としてチームの結果がもちろん最重要だ。その中でも試合前までの打率は1割3厘だったが、2回にプロ1号本塁打を放った。正直に言えば驚きだし、感慨深い。

14年ドラフト5位で中日に入団し、ルーキーイヤーは私の監督2年目だった。肩は一級品だったが、それ以外の能力はプロの捕手の基準に達していなかった。特に打撃は私がプロ野球人生で見た野手の中では一番力がなかった。

キャンプではプロの世界で戦える下地を作るために、とにかく練習をさせた。キャッチング、ブロッキング、足の運び。練習量は相当なものだったはずだ。後に本人も「あの時の練習が一番きつかった」と言っているということを最近、人伝えに聞いた。

加藤に感心させられたのは、体の強さだ。他の捕手は故障の1歩手前でストップをかけることもあったが、やり遂げたのは私の中では桂と2人だけだった。何よりこちらが教えたことを素直に受け止める謙虚さがあった。

その姿勢は今も変わっていない。プロの世界に長くいると忘れがちになるが、目の前のワンプレー、1球に必死に向き合っていると感じられる。初本塁打もそうだし、1回の守備も制球の乱れた先発美馬は4番杉本、5番T-岡田と3ボールまで追い込まれた。四球を嫌がり、「エイ、ヤー!」で直球を選択してもおかしくないが、粘り強くスライダー、フォークを投げさせ、ピンチを切り抜けた。

6月に中日からトレード移籍し、初めてのパ・リーグで選手の特徴を把握するのも大変だったはずだ。加入後は先発した試合で17勝8敗5分けで勝率6割8分、出場時は防御率2・99は立派な数字だ。まだレギュラーとは言えないが、シーズン途中での移籍で主戦捕手になることは、ほとんどない。打撃も含めて課題もまだあるが、捕手は持って生まれた強肩があれば、本人のひたむきな努力次第で活躍できるポジションだということを再認識した。(日刊スポーツ評論家)