矢野阪神の集大成を-。日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(41)が月イチで野球界の話題を語る「鳥谷スペシャル」。今回は「阪神はクライマックスシリーズ(CS)をどう戦うべきか」を考察した。古巣はセ・リーグ3位で逆転CS進出を果たし、8日から同2位DeNAとファーストステージを戦う。8連敗中の横浜スタジアムで下克上を起こすために必要な要素とは? レジェンドOBは「足の重圧」をポイントに挙げた。【聞き手=佐井陽介】

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阪神とDeNAはともに救援陣が整備されたチームです。終盤に勝ちパターンの投入を許すと、逆転できる確率は一気に下がってしまいます。その上、短期決戦では1点ビハインドでもセットアッパーが出てくる可能性が十分ある。そう考えれば、中盤までに2、3点リードを奪っておく展開が理想的です。

では、タイガースはどうやって点を積み重ねるべきなのでしょうか。

狭い横浜スタジアムは「守る球場」ではなく「点を取る球場」。もちろん長打や本塁打を出せるに越したことはありませんが、阪神打線は他球団と比べて打力が秀でているチームとは言えません。そもそも打者が打てる確率は一流選手でも3割あるかないか。下手すれば2試合で終わってしまうかもしれない短期決戦で、3割の確率に頼りすぎるのはあまりに危険です。

そこで提案したい戦い方が、突出した長所を前面に押し出したスタイルです。

阪神にあってDeNAにないモノ。それは足です。しかも足は打力と違って、短期決戦でもある程度は計算が立ちます。分かりやすい数字だけを見ても、矢野監督が指揮を執っている4年間のチーム盗塁数は4年連続リーグ最多。これほどの強みを生かさない手はありません。出塁したらレギュラーシーズン以上に動いてくるというイメージを、どれだけ早い段階で植えつけられるか。ここに勝利のポイントが隠れているような気がします。

今季を振り返れば、中野選手、島田選手、近本選手の俊足3人が上位に並んでいた頃は打線が活発だったように記憶しています。簡単に犠打でアウトを与えない。盗塁にエンドラン、セーフティーバントかと思えば強攻策…。何をしてくるか分からない、足でかき回してくるスタイルは、相手からすれば厄介で仕方がなかったはずです。

走者が警戒される。投手の制球が甘くなる。内野手のポジションが変わり、ヒットゾーンも広くなる。大山選手や佐藤輝選手が失投を見逃さず、適時打や長打で大量得点を呼び込んでいく。そういった現チームの理想型に今こそこだわってほしいなと思います。

たとえば1番中野選手、2番島田選手、3番近本選手の並びだった場合、ヒットで無死一塁、犠打で1死二塁、進塁打で2死三塁、適時打で1点という形でも十分といえるでしょう。ですが、ヒットで無死一塁となった後、バスターエンドランで無死一、三塁にしてから内野ゴロの間に1点を取れれば、もう言うことはありません。先手先手で動くことで、相手に与えるプレッシャーを大きくしてほしいのです。

たとえ作戦が失敗に終わっても、序盤に足を絡められれば、その姿勢をDeNAブルペン陣は必ず目に焼きつけています。さらに言えば、CSファイナルステージで待つヤクルト、日本シリーズで戦うかもしれないパ・リーグ3チームのスコアラーもチェックしているはずです。阪神はこの短期決戦、今まで以上に動いてくるぞ-。もう1度頂点を狙う上で、足のプレッシャーを印象づけておく作業はプラスになることこそあれど、マイナスになることはないと考えます。

阪神は今回、リーグ3位でCSを戦います。失うモノなど何一つないのですから、当たって砕けろぐらいの思いきりを持ってもいいのではないでしょうか。今季限りで退任される矢野監督の最終章。ぜひとも「走る野球」の集大成を見せてほしいと願います。(日刊スポーツ評論家)

9月27日、ヤクルト対阪神 9回表阪神1死一塁、一塁走者近本は打者大山のとき二塁盗塁を決める
9月27日、ヤクルト対阪神 9回表阪神1死一塁、一塁走者近本は打者大山のとき二塁盗塁を決める
鳥谷敬氏(2022年4月4日撮影)
鳥谷敬氏(2022年4月4日撮影)