高校野球の夏甲子園が幕を閉じた。最後は慶応(神奈川)が107年ぶりの全国制覇を達成。大熱戦の数々に加え、今大会も注目を集めたのが球児たちの「髪形」だった。日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(42)が球界の話題を掘り下げる「鳥谷スペシャル」。23年第4弾では「球児の髪形」をテーマに、今後の野球界への思いを力説した。【取材・構成=佐井陽介】

慶応・丸田湊斗(2023年8月撮影)
慶応・丸田湊斗(2023年8月撮影)

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今夏の甲子園では髪形にも例年以上の注目が集まりました。全校を確認したわけではないですが、全国制覇した慶応高校をはじめ、丸刈りを強制しないチームが明らかに増えている印象です。これは前向きな傾向だと個人的には感じます。誤解のないように先に補足しますが、丸刈りがダメ、長髪がいい、という意味ではありません。本来個人の自由である選択肢が1つに強制されるのはおかしかった、ということです。「強制」がなくなることが一番大事だと考えます。

自分はもともと少年時代から野球界の理不尽な部分にずっと違和感を感じていました。当時はまだ残っていた「水を飲むな」という教えもそうですし、髪形もそう。なぜ丸刈りでないといけないのか、どうしても理由を見いだせなかったのです。野球の場合、帽子をかぶったら丸刈りだろうが長髪だろうがプレーに影響はありません。むしろサッカーの方がヘディングするし、走っていて邪魔になったりもしそうなのに、野球は丸刈りでサッカーは自由という風潮に納得できずにいました。

なので、中学、高校時代は丸刈りを強制されないシニア、学校を選びました。もし通える学校で丸刈りじゃなくても大丈夫なチームがなければ、それこそ野球を辞めていたかもしれません。実際、丸刈りが嫌で野球を辞めた学生もかつては少なくなかったと思います。野球人口が減っている中、これ以上そんな少年を増やさないでほしいと切に願います。

聖望学園時代の・鳥谷敬氏(1999年7月撮影)
聖望学園時代の・鳥谷敬氏(1999年7月撮影)

もし学校の中でルールがあるのであれば最低限のルールは守る。その中で周りの人たちに不快感を与えたり、競技をする上で邪魔になったりしない範囲であれば、基本的にどんな髪形であろうが関係ない。もちろん丸刈りにしたい球児は丸刈りにすればいいし、少し長めが好きな球児はそうすればいい。1つのチーム内にいろんな髪形の選手がいて当たり前という時代になってほしいものです。

自分は昨年からパリ五輪を目指す選手の取材を続けており、あらゆる競技のプレーヤーと話をさせてもらってきました。ブレイキンにスケートボード、レスリングに陸上、バスケットボール、クライミング、BMX…。7月には福岡で世界水泳のアーティスティックスイミングも観戦させてもらいました。自分たちの子供の頃よりもスポーツの選択肢が増えているのは間違いありません。魅力的な他競技との競争の中、野球も今のうちに不必要なマイナス要因を見直していくのは非常に大切な作業だと感じます。

最近ではフェンシングの世界選手権で2連覇を果たした江村美咲選手と対談させてもらいました。江村選手は手を使う競技性もあって、爪を丁寧に短くされていました。一方で髪の色は気分に合わせて楽しんでいる様子でした。もちろん江村選手のようなプロ選手と学生を一緒にするつもりはありませんが、球児だってプレーに影響のない範囲であれば髪形を楽しんでもいいのではないでしょうか。

今、野球界は岐路に立っているように思います。高校野球でいえば、甲子園は夏の真昼にやらないといけないのかという議論も出てきています。高額なグラブなどを買えない、金銭的に余裕がない子供たちのサポートも必要だと感じます。もう1度、1人でも多くの子供たちに白球を手にしてもらうためにも、より良い環境を皆で模索していかなければなりません。(日刊スポーツ評論家)

日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏は7月、世界水泳のアーティスティックスイミングを会場で観戦(撮影・佐井陽介)
日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏は7月、世界水泳のアーティスティックスイミングを会場で観戦(撮影・佐井陽介)