<阪神2-1広島>◇18日◇甲子園
3月11日の朝、スマートフォンの着信音で目が覚めた。侍ジャパンに選出されていた阪神中野拓夢内野手(26)の父、茂明さんからだった。「もう、ダメなんだわ、食欲もわかなくて」。
前夜のWBC韓国戦で源田壮亮内野手(30)が右手小指を骨折。代役として出場した中野のプレーを、山形・天童市の実家のテレビで見守った両親は生きた心地がしない心境で見守っていたという。
中野も壮絶なプレッシャーと戦っていた。「本当に吐きそうなぐらいの重圧があった」とWBCを振り返ったこともある。自身にも周囲の人たちにも影響を与えた強烈なプレッシャーを乗り越えての世界一。18日広島戦でのサヨナラ打を放った後の囲み取材で「正直、WBCの方が緊張していました」と吐露したのも、納得できる。
メンタル面で強くなったことはもちろん、世界一と同時にレギュラーシーズンも見据えていたからこそ生まれたサヨナラ打だろう。中野はWBC決勝ラウンド期間中、米マイアミのローンデポパークでセンターの守備練習を続けていた。フリー打撃中、打球を追いかけ、ダッシュ。決して短くない時間を、中堅守備に時間を割いていた。
有事の際の練習か? 記者陣の妄想は外れた。意図はこうだ。
「体を動かしたかったんです。(ベンチにいる時間が長いと)走る量も多くないので。自分でフリー打撃のフライを追えば、自然と長い距離を走ることができる」
誰かに指示を受けたわけではない。準決勝メキシコ戦、そして米国との決勝、ここぞの場面で走れるように。さらに、阪神に戻っても、いきなりフルスロットルで戦えるように。「内野ノックだけだったら運動量があまり多くないので、自分で走っておきたいと」。自ら工夫を重ね、運動量を維持している姿が、そこにはあった。
プロ初のサヨナラ打に山形の両親も喜んでいることだろう。重圧に強く、準備も徹底できる中野なら、今季何度も、この日の夜のようなシーンを見せてくれるはずだ。【阪神担当=中野椋】




