野球の国から

「のぞき」の実態/サイン盗みを考える

<サイン盗みを考える11>

現場取材歴が長いベテラン記者が、さまざまな角度から「サイン盗み」を考察する。

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プロ野球界では「サイン盗み」を「のぞき」と呼んでいる。一般社会でも「のぞき」と聞けば「卑劣」「姑息(こそく)」といった悪い言葉を連想するだろう。悪いと分かっていても、なぜ「のぞき」がなくならないのか。背景を紹介していきたい。

今季も「のぞき疑惑」があった。得点圏打率の高い打者が打席にいる時に、走者の動きをマークしていると、捕手が動くのを見て、動く方向に膝を曲げ、打者に教えるような動作をしていた。守備側のチームが、ベンチから大声を出してヤジったが、指摘された走者は「いつもやっているクセですよ」といった様子で、捕手の動きに関係なく、その後もピクピクと膝を動かしていたという。

この程度なら「疑惑」であり、笑い話で済む。しかし数年前には、紙一重で表沙汰にならなかった「疑惑」もあった。

直球とフォークボールの2種類しか投げない中継ぎ右腕が登板。三塁コーチが、球種によって打者側に向いたり、投手側を向いたりしていた。確か1イニングで18球ぐらいを投げ、三塁コーチが向いていた方向と違った球種は1球だけ。違っていた1球は、投手が首を振ってすぐに投げたものだった。

かねて「のぞき疑惑」があったチームだけに、相手チームが三塁コーチの動きを録画。証拠を見せて抗議すると、相手球団は紛らわしい行為があったと認めて謝罪し、表沙汰にはならなかった。

なぜ「のぞき」がなくならないかといえば、明確な証拠を挙げるのが難しいからだ。限りなくクロに近い後者の例でも「たまたまそうなっただけ」や、ベースコーチが「直球だと分かったときに、どちらかに向くクセが自分にはあるのだろうが、打者には伝えてはいない」としらを切り通せないこともない。

のぞかれ放題にして証拠を得ようとすれば、投手は打たれて成績を落とすし、チームも勝てなくなる。バレたと思っても、別の方法で繰り返せる。長いプロ野球の歴史を見ても「のぞき」で重いペナルティーを受けた関係者はいないのだから、現状「のぞき撲滅」は不可能に近い。

そもそも、ひと昔前と比べると「のぞき」ぐらいはかわいいものだ。はるか昔には選手がアルバイトを雇ってスタンドからサインを盗ませたり、テレビ中継で映った捕手のサインを解読してベンチに伝えていた時代もあった。グラウンド外からのサイン伝達は「スパイ行為」とされ、重いペナルティーが科せられてからも、隠しカメラが設置されているうわさが根強い球場もある。

今から考えると信じられないような「のぞき」をしてきたり、のぞいていたことを知っている関係者はたくさんいる。そういった人が多くいれば、現在の「のぞき」は重たいものとは受け止められにくく、きつくとがめられないだろう。(つづく)

【小島信行】

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