不動心。夏の福島大会11連覇中の聖光学院グラウンドに掲げられているモットーだ。99年に就任した斎藤智也監督(54)は徹底的に人間力を鍛える指導法を確立し、春夏19度の甲子園に導いている。一発勝負の夏に負けない聖光学院の「精神力の強さ」に迫った。

   ◇    ◇   

 非情な通告が、斎藤を「人間力野球」に向かわせた。12年間任された部長から監督に就任したが、学校側からは「3年以内に甲子園に行けなければ、ユニホームを脱いでもらう」と告げられた。現実的に厳しい目標を掲げられながらも、確信があった。

 斎藤 現有戦力でやるわけだから、たった3年じゃ甲子園出場は無理。技術だけを指導しても追い付かない。心技体の「心」の部分を鍛えないと。他のチームにないオリジナルを徹底的に追究するしかなかった。

 中村天風、安岡正篤-。斎藤は偉大な先人たちの本を読みあさった。たどり着いた境地が「不動心」。高校野球において、メンタル面はプレーに直結する。

 斎藤 人間が不動になるためには、どうしたらいいのかを追究した。負けたらどうしよう、勝てなかったらどうしようっていうのは、不動じゃない。

 「前後際断」という禅の言葉にも出会った。「前にも後にもとらわれず、今この瞬間を精いっぱいに生きる」という意味を持つ。

 斎藤 終わったことや未来のことを、グズグズ考えない。「前後際断」の考え方のコツが分かってくると、そんなことを考えても愚の骨頂だと気付く。試合にチャンスもあればピンチもある。そんなのでいちいち動揺してたら野球になんねーぞと。

 偉人たちの話をかみ砕いてプリントにまとめ、ミーティングで毎日落とし込んだ。すると見違えるほどチームは強くなっていく。

 斎藤 就任した秋は地区で負け。翌春は県準優勝。他のチームに動じなくなってきた。選手の顔つき、目つきを見ると分かる。結果も出たから、オリジナリティーになっていったよね。

 精神的に揺るがなくなった聖光の快進撃が始まる。就任2年目の01年夏決勝。日大東北相手に延長11回に4点勝ち越されたが、その裏に5点を奪って大逆転勝ちで同校初の甲子園出場を決めた。07年からは夏の福島大会を11連覇している。

 斎藤 相手がいる野球の勝ち負けは操作できないけど、自分自身に勝つことは操作できる。勝ち負けにとらわれないで心を動かさず、ひたすら試合に入り込む。最後の最後まで潔く戦う。それで力が及ばずに負けたら仕方ない。

   ◇    ◇   

 福島で無敵を誇る一方で、夏の甲子園では4度の準々決勝進出が最高成績だ。今春のセンバツは2回戦で東海大相模(神奈川)に3-12で敗れた。近年、全国の上位校は積極的なスカウトで強化するが、聖光は無縁だ。メンバーは東北のみならず全国からやってくる、斎藤の指導を仰ぎたい選手のみで構成される。

 斎藤 有力な中学生を追っかけて球場に行く暇があるぐらいなら、俺は今いる選手に対してミーティングをやる。ここだけは裏切れない。与えられた環境でベストを尽くす。試合の勝ち負けだけにとらわれた感覚になると、俺自身がつまらない。そのためだけにやっているわけじゃない。一投一打、今の心を「前後際断」して魂を傾ける、ということができれば大きな財産だと思う。

 監督がぶれないからこそ、揺るがない選手が育っていく。(敬称略)【高橋洋平】

▼01年福島大会決勝(開成山球場)

日大東北

010 010 100 04  7

000 100 011 05X 8

聖光学院

【日】江河、宗像―古川【聖】橋本、村上、阿部純―小野寺

 ◆福島の夏甲子園 通算35勝56敗。優勝0回、凖V1回。最多出場=聖光学院14回。